2011年12月29日
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5金スペシャル
非日常から日常を見つめ直すために

寺脇研氏(映画評論家、京都造形芸術大学教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第559回

 5週目の金曜日に特別企画を無料放送でお届けする恒例の5金スペシャル。2011年最後の放送回となる今回は、こんな1年だったからこそ、映画評論家の寺脇研氏をゲストに、あえて映画特集を組んでみた。
 2011年は東日本大震災と福島第一原発事故で、日本全体が一瞬にして非日常に突き落とされた年だった。幾多の深刻な問題を抱えながら、なんだかんだとごまかしながらこの20年あまり、この日常がいつまでも続くかのようなふりをし続けてきた日本だったが、いよいよ今年の3・11にその時はやってきた。
 震災からの再出発を切るに当たり、今、われわれに求められていることは、これまで当たり前のように行なってきた日常を、「本当にこれでよかったのか」と、あらためて問い直すことだろう。そこで今回はそもそもわれわれの日常にどのような価値があるのかを根本から問う作品を中心に取り上げた。
 番組の前半で取り上げたのは『恋の罪』(園子温監督)、『毎日かあさん』(小林聖太郎監督)、『マイ・バック・ページ』(山下敦弘監督)、『大鹿村騒動記』(阪本順治監督)の邦画4作品。
 『恋の罪』では、貞淑だったはずの作家夫人が渋谷円山町で出会った売春婦に洗脳され、転落していく過程で、これまでの退屈な日常が抱える矛盾を問い直していく。『毎日かあさん』、『マイ・バック・ページ』、『大鹿村騒動記』も戦場でのカメラマン生活、学生運動が盛んに行われた60年代後半の時代、村に代々伝わる歌舞伎の舞台といった非日常から夫婦生活やサラリーマン生活の日常を見つめ直す機会を提供してくれる。
 後半では2本の外国映画を取り上げた。『ルルドの泉で』(ジェシカ・ハウスナー監督)は、奇跡を呼び起こすといわれる聖地ルルドを訪ねた車椅子のクリスティーヌに奇跡が起こったことで、周りの人々の彼女に対する視線が憐憫から嫉妬へと変わっていくさまを描いた作品。「奇跡」という非日常的な出来事によって、人々の日常に起こる変化を描いている。彼女に対する周囲の視線とその変化に、自分の感情と似たものを見出す人も多いはずだ。
 一方で、『アジョシ』(イ・ジョンボム監督)は、犯罪組織に拉致された少女を、隣の部屋に住む質屋のおじさんが救い出すという映画。犯罪組織に一人で立ち向かうという極端な非日常から、少女と隣のおじさんという日常の二人の関係が再認識される。
 これまで当たり前だと思ってきた日常を続けてきた結果、今のわれわれが、そして今日の日本がある。再出発を図るためには、まずこれまでの当たり前を見つめ直し、どこがおかしかったのか、どこにごまかしやすり替えがあったのか、どの部分は誠実なものだったのかを、われわれ一人ひとりが、あらためて自問自答することではないか。もはや事ここに至った以上、その過程で見えてきた新しい価値観を一つ二つ、われわれの日常に加えてみることも一考に値しよう。
 非日常から日常を見つめる上でのヒントを与えてくれそうな6本の映画を、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が寺脇氏と語り合った。

 
寺脇 研てらわき けん
(映画評論家、京都造形芸術大学芸術学部教授)
1952年福岡県生まれ。75年東京大学法学部卒業。同年文部省(現文部科学省)入省。広島県教育委員会教育長、大臣官房審議官、文化庁文化部長などを経て06年退官。07年より現職。著書に『韓国映画ベスト100 「JSA」から「グエムル」まで』。 472_terawaki
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