2012年10月6日
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自民党は本当に生まれ変わったのか

野中尚人氏(学習院大学法学部教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第599回

 2009年8月の総選挙で改選前300あった衆院の議席を119まで減らすという結党以来の大敗を喫し、政権の座から滑り落ちた自民党は、谷垣総裁の下での「解党的出直し」を誓った。それから3年、もっぱら民主党政権の自滅のおかげと言っていいのだろう、自民党の支持率が民主党を上回る状態が続き、今この瞬間に総選挙が行われれば、再び自民党が第一党の座につく可能性が高くなっている。
 そうした中、自民党は安倍晋三元首相を新総裁に選び、捲土重来を誓っている。
 確かに、自民党が単独で過半数を取るまではいかないにしても、第一党となれば、自民党が何らかの形で政権の座に返り咲く可能性は非常に高い。
 しかし、3年前の総選挙で日本の有権者は明確に自民党政治にノーを突きつけている。では、果たして自民党は変わったのか。変わったとすれば、どう変わったのか。また、変わっていないとすれば、われわれ有権者は日本がこのまま旧来の自民党政治に戻ることを、本当に善しとするのか。
 自民党政治に詳しい学習院大学教授の野中尚人教授は、自民党は09年の大敗の後、解党的出直しを誓ったが、民主党の敵失のおかげでそのわずか1年後の参院選で「棚ぼた」的に勝利してしまったために、抜本的な変革のチャンスを逸してしまったと残念がる。民主党政権の体たらくを見ているうちに、痛みの伴う改革などしなくても解散総選挙に追い込んで政権復帰できるとの期待が膨らんでしまったからだ。
 しかし、野中氏は政権がどれだけ有効に機能するかは、 「野党の時にどれだけイノベーションができるか、それが次のフェーズのクオリティを決定する」と指摘する。
 その意味で、自民党が過去3年間の野党時代に何をやってきたかを改めて検証してみると、党の新しい綱領を作り、新憲法の草案を打ち出したほか、政策として「日本再興」という政策提言を出しているのが目を引く。
 しかし、綱領や憲法草案では、「日本らしさ」「自主憲法制定」「一国平和主義(集団的自衛権の欠如を指すと思われる)からの脱却」「自衛隊の国防軍化」、「自助、共助、公助」「家族の価値」といった党内タカ派の主張が多く並んでいるのが目に付く。また、財政再建は強調するが、その一方で国家強靭化計画などで10年間で220兆円ものインフラ整備を主張するなど、自民党旧来の公共事業推進の姿勢が目に付く。
 過去3年の間に自民党が打ち出してきた理念や政策から「解党的出直し」や「新しい自民党」の片鱗を見てとることはできるだろうか。
 4年前に「自民党システムの終焉」を説いた野中氏は、もともと自民党のアイデンティティは高度経済成長がもたらす富で日本全体を包摂する政党という位置づけだったが、もはやそれが不可能となった今、旧来の自民党システムが復活することはない。しかし、それに変わる新しいアイデンティティを探す中で、自民党が新たなアイデンティティとして保守の旗を立てるという選択肢には一定の合理性はあるのではないか。もはや日本全体を自分の配下に置けない以上、何らかの旗を立てることは必要となる、と野中氏は言う。
 しかし日本の政治が直面する問題は、もう少し深いところにあるのではないか。野中氏が一貫して主張している現在の日本の政治が抱える最大の問題は、政治がまともに機能できないようなシステムになっているにもかかわらず、そのシステムを変えようとする動きが見られないことだ。これではこの先何政権ができようが、政治の停滞は続くことが避けられない。
 具体的な問題として、野中氏は1)参議院の力が強すぎるため、ねじれが生じた瞬間に政治が止まってしまう、2)国会に有形無形の複雑なルールや慣習があるため、法案がなかなか通らない、3)政府の国会に対する権限が弱すぎる、の3つをあげる。
 これは日本の民主主義の根幹に関わる問題だが、「今までこのような関係について何の議論もなかったがこれではどうしようもない。なぜ決められない政治なのか。これは誰かが悪いというものではない」と野中氏は語る。
 自民党の現状について、社会学者の宮台真司とジャーナリストの神保哲生が、野中氏と議論した。

  • ・米大統領選のもう一つの見方
    ゲスト:町山智浩氏(コラムニスト・映画評論家)
 
野中尚人のなか なおと
(学習院大学法学部教授)
1958年高知県生まれ。84年東京大学文学部西洋史学科卒業。93年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。静岡県立大学国際関係学部助手、学習院大学法学部助教授を経て96年より現職。99年〜01年オックスフォード大学客員研究員を兼任。著書に『自民党政権下の政治エリート』、『自民党政治の終わり』など。 391_nonaka

 

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