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安倍・菅政権のコロナ対策はどこに問題があったのか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1065回)

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完全版視聴期間 あと6日12時間58分
公開日 2021年09月04日

ゲスト

東京大学大学院法学政治学研究科教授・内科医

1974年東京都生まれ。2000年東京大学医学部卒業。1998年司法試験合格。2004年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。東大病院、日本赤十字社医療センター循環器科勤務医、東北大学大学院法学研究科准教授、東京大学大学院法学政治学研究科准教授などを経て、17年より現職。現在、東京都健康長寿医療センター勤務医(循環器内科)を兼務。専門は民法・医事法。著書に『医事法講義』、共著に『生命科学と法の近未来』など。

著書

概要

 菅首相が退陣を表明した。

 退陣に追い込まれた直接の理由は、党内の派閥力学、とりわけ昨年9月に安倍元首相と麻生副首相主導で緊急避難的かつ棚ぼた式に政権の座に就いた菅氏が、此度の自民党総裁選を機に今度こそ安倍・麻生両氏の傀儡ではない独自の政権を樹立しようと考え、両氏の意向に沿わない人事を断行しようとして返り討ちにあったというだけの、いつもながらのお粗末な永田町の論理の帰結に過ぎないのかもしれない。しかし、そもそもここに来てなぜ菅政権が人事に手を付けなければならず、結果的に派閥力学に翻弄されることになったかといえば、政権のコロナ対策が機能しない中、緊急事態宣言などで延々と我慢を強いられてきた国民の反発のために政権の支持率が急落し、否が応にも2ヶ月以内に総選挙を迎える党内が「このままでは選挙が戦えない」と浮き足立ち始めたからに他ならない。コロナ対策で国民を納得させることができ、ある程度の支持率を保つことができていれば、特に野党の支持率が高まっているわけでもない今、発足から1年も経たない政権の首をすげ替える必要などなかった。結局、今回のコロナ禍とその対応の失敗が、安倍・菅と2代にわたる政権を退陣に追い込んだと言っても過言ではないだろう。

 安倍・菅政権のコロナ対策はどこに問題があるのだろう。菅政権はデジタルカーボンニュートラルなどの旗印を掲げようとはしていたが、この1年、ほぼコロナ対策だけに終始せざるを得なかった。その菅政権のコロナ対策は、元々居抜きで安倍政権を継承する形となったこともあり、丸ごと安倍政権の路線を踏襲したものだった。

 8月25日の記者会見でビデオニュース・ドットコムから「自民党総裁選に出馬されるということは、総理ご自身は菅政権のコロナ対策が上手くいっていると考えているということなでしょうか」と問われた菅首相は、「ワクチン接種が進んでいること」、「欧米と比べて日本の死者数が少ないこと」などを理由に、自身のコロナ対策はうまく機能しているとの認識を示した。しかし、もし政権のコロナ対策が機能しているのであれば、なぜ日本国民は今年に入ってからほぼ毎日のように緊急事態宣言だのまん延防止等重点措置などで制約を受けた生活を強いられているのだろうか。東京にいたっては今年に入ってから9月4日までの8ヶ月あまり、緊急事態制限やまん延防止等重点措置に基づく自粛要請が発令されていない、つまり一般市民が我慢を強いられずに日常生活を送ることができていた期間は、たったの28日間しかなかった。247日中219日間も我慢を強いられてきて、「コロナ対策はうまくいってる」と言われても、一体どれほどの人が納得できるだろうか。

 8月に3週間、ドイツのコロナ対策を視察してきた法学者であり医師でもある米村滋人・東京大学大学院法学政治学研究科教授は、ドイツと比較した時、ここまでの日本のコロナ対策がいかに科学的にも法律的にもいい加減なものばかりだったかを痛感させられたと語る。

 ドイツではコロナ禍に見舞われてから3回も感染症関連の法律を改正し、新たな状況に対応してきた。民主国家の政府が感染症の蔓延という緊急事態下で国民に犠牲を求める措置を取る以上、そこには明確な法的権限が求められる。そして、その法律は科学的な根拠は言うに及ばず、「合理性があり平等なものでなければならない」(米村氏)。当初新型コロナウイルスの正体が十分にわかっていなかった段階で新たに導入された制度やルールが、科学的な知見の進行に呼応して改正を繰り返していくことは当然のことであり、むしろそれができる限り合理的な政策を推し進めようとする政府の態度の現れとなる。

 実施、ドイツでは昨年3月に緊急避難的なロックダウンを行って以降、陽性者が一定数増加するごとに採用される制限措置の内容とその基準が明確に定められ、常時その情報を国民に公開することで、国民の側にある程度の自主的な自粛を促すという手法が採用されたと米村氏は説明する。感染者が一定数を越えれば、州政府や連邦政府が介入し国民の行動を制限するが、その基準や制限の内容は予め明確に定められていた。また、全国民がいつでも抗原検査を受けられるような体制も整備された。

 一方、日本は残念ながら、できるだけ政府に裁量を残すようなアバウトな文言の法律で、この状況を乗り切ろうとした。その結果が、国民の行動制限のために多用された「自粛要請」だったり、病院のコロナ病床への転換を進めるための「お願い」(菅首相)だったりした。法律にはソフトローとハードローという考え方があるが、緊急事態に国民の自主性に依存したソフトロー方式で対処していれば、いずれ法律の効果が利かなくなるのは必至だった。

 日本では政府に強制力を与えることに抵抗がある人が多いのではないかとの問いに対して米村氏は、日本の政府が合理的で平等な法の制定と執行ができないことこそが、いつまでたってもその不信感が払拭できない要因になっていると語る。

 結果的に日本では、感染源の特定と遮断という感染症対策のイロハの要となるPCR検査を、正体不明の「目詰まり」(安倍元首相)のために十分に拡充することができなかったり、人口あたりの病床数では世界一を誇るにもかかわらず、なぜか一向にコロナ病床を増やすことができず、欧米の数十分の一の感染者数であっという間に医療が逼迫してしまうといった謎の現象のために緊急事態宣言を出し続けざるを得ないという現在の事態につながった。

 では、次の政権はどうしたらいいか。米村氏は、まずこれまでのコロナ対策が間違っていたことを認めるところから始める必要があると言う。その上で、医療法など必要な法改正はできるだけ速やかに実行すると同時に、もしPCR検査を増やすのが難しければ抗原検査でも構わないので、「いつでもどこでも誰でも」が検査を受けられる体制を整備し感染源を把握する。また、医療体制の強化については、病床の不足もさることながら、その偏在に大きな問題があるとして、地域の医療機関の代表者から成る「協議会」を作り、患者や医師、看護師などを融通し合う仕組みを早急に作るべきだと語る。もっとも、8割を民間病院が占める現在の日本の医療体制下では放っておいてもそのような「協議会」は自然発生的に立ち上がらないので、必要な予算を付けるなどして政府や自治体がそれを主導していく必要がある。

 確かに日本はドイツのように国民から選ばれた国会での熟議を経て、科学的な根拠があり合理的で平等な法律を制定し、行政府が法律に基づいた施策を忠実に執行するという議会制民主主義の大原則を忠実に行う伝統が弱いし、そもそもそれが苦手なのかもしれない。ハードローで雁字搦めにするよりも、普段はソフトロー的なアプローチの方が日本には合っているという考え方もあるだろう。しかし、今回のようにいざ緊急事態に見舞われた時、平時のビジネス・アズ・ユージュアルは通用しない。

 今回のコロナ禍は数々の点で日本の弱点を露わにしたが、中でも日頃から上記の民主主義の大原則を軽視してきたことの大きなツケが、安倍・菅政権下で回ってきたと言えるだろう。そこを軽視してきたためにいつまでたっても国民が政府を信頼できず、いざとなった時に政府に強い権限を与えることに二の足を踏んでしまうのだ。

 菅首相の後継者にも、またこの先、政権を担当することになるいかなる勢力にとっても、合理的で平等(フェア)な法律を制定し忠実に執行できると国民が信頼できる政府を作ることが、日本にとっての喫緊の課題となる。

 ドイツから帰国し、現在自宅で2週間の自主隔離中の米村氏と、氏がドイツで見てきたコロナ対策の実例を元にこれまでの安倍・菅政権のコロナ対策はどこに問題があったのか、次の政権は何をどう変えればいいのかなどについて、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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