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特措法と感染症法の刑事罰導入は百害あって一利なしだ

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1032回)

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公開日 2021年01月16日

ゲスト

東京大学大学院法学政治学研究科教授・内科医

1974年東京都生まれ。2000年東京大学医学部卒業。医学部在学中の1998年司法試験合格。04年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。東大病院、日本赤十字社医療センター循環器科勤務医、東北大学大学院法学研究科准教授、東京大学大学院法学政治学研究科准教授などを経て、17年より現職。現在、東京都健康長寿医療センター勤務医(循環器内科)を兼務。専門は民法・医事法。著書に『医事法講義』、共著に『生命科学と法の近未来』など。

著書

概要

 ついこの間までGOTOキャンペーンの中止さえも躊躇していた菅政権は、ここに来て、首都圏に続き関西圏、福岡などでも相次いで緊急事態宣言を発出するなど、ようやく本気でコロナの抑え込みに本腰を入れ始めたように見える。しかし、やや遅きに失した感は否めず、感染拡大は一向に衰えを見せていない。

 菅首相は関西地方や福岡の緊急事態宣言発出を発表した1月13日の記者会見で、コロナ特措法感染症法を改正し、営業停止要請に応じなかった店舗や、感染が明らかになったにもかかわらず入院措置に応じなかった感染者に対して、政府が刑事罰を伴う強制力を持たせる意向を表明した。

 現在の日本の医療危機が実際はコロナの感染拡大によるものではなく、むしろ医療行政の不作為によって世界一の病床数を誇りながら病床の転換が進んでいないことにあることをいち早く指摘して話題を呼んだ、東京大学法学政治学研究所の米村滋人教授は、これらの法律に刑事罰を伴う強制力を持たせることは本末転倒であり、百害あって一利なしだと一蹴する。

 そもそも現在の感染症は結核やハンセン病の感染者の強制収容が法的に行われ、蔓延防止の名目の下で科学的根拠が乏しいにもかかわらず、著しい人権侵害が行われたことの反省の上に立ち、1998年に歴史的な改正が行われて現在に至るものだ。強制入院措置が人権上も、また公衆衛生の実践上も、ディメリットが大きいことは歴史が証明している。

 米村氏は検査を受けて陽性になれば、強制的に入院させられ、拒否すれば刑事罰が与えられるようになれば、検査を受けたがらない人や、個人的に検査を受けてもその結果を公表しない人が続出し、結果的に公衆衛生上の効果が上がらないことが予想されると指摘する。特に、コロナに関しては、個人的に検査ができる検査キットなどが広く普及し始めている現状では、陽性者に多大な法的リスクを負わせるような法改正を行えば、多くの人は自分が陽性である事実を隠すことは目に見えている。強制措置はかえって公衆衛生上のリスクを増大させるだけだというのだ。

 また、特措法に基づく休業や時短要請に応じない事業者に対して過料や刑事罰を含む法的な拘束力を持たせることについても、慎重さが求められる。十分な補償を受けながら密かに営業を続けるような悪質な事例に対しては、何らかの罰則が適用されることはあって然るべきかもしれないが、ほとんどの事業者にとっては、十分な補償がないままで休業を強いられれば、それはただちに死活問題となる。従順に政府の指示に従った結果、会社が倒産したり失業したとしても、政府が補償してくれるわけではないとなると、リスクを承知の上で営業を続けざるを得ない事業も出てくるだろう。本来は十分な補償によって事業者の協力を得られるような形にしなければならないはずで、それに従わない事業者が多く出ているとすれば、それは補償が不十分なために、従いたくても従えない事業者がたくさんいるということに他ならない。

 むしろ問題は、政府が本来すべきことをやらないまま、もっぱら民間の事業者や個人に犠牲ばかりを求めた挙げ句の果てに、要請に応じない相手には法の力で相手をねじ伏せてでも犠牲を強制しようとしている政府の姿勢にあるのではないだろうか。これは本末転倒も甚だしい。

 以前から米村氏が指摘するように、日本は人口当たり世界一の病床数を誇る。そして、現在の日本の感染者数は、ここに来て急増しているとはいえ、まだアメリカの75分の1程度、イギリスやフランスの数10分の1程度に過ぎない。にもかかわらず、既に日本の医療が崩壊の淵にあるとすれば、それは何か日本の医療行政に重大な欠陥があるとしか考えられないではないか。

 米村氏が指摘してきたように、現在の医療法の下では政府は医療機関に対して病床の転換を要請することしかできない。お願いするしかないのだ。結果的に日本の全医療機関の8割を占める民間医療機関のうち、わずか2割程度の病院しかコロナ患者は受け入れていない。昨今メディアが騒いでいる日本の医療危機や医療崩壊は、コロナ患者を受け入れている全体の3割程度の医療機関でのみ起きていることなのだ。

 こうした状況を受けて1月15日、政府が感染症法の16条の2項を改正して、医療機関に対して感染者の受け入れを現在の「要請」から「勧告」できるようにするとの意向が、一部のメディアによって観測気球のように報じられた。しかし、米村氏は「要請」を「勧告」に変更するだけでは実効性は期待できないと断じる。そもそも勧告というのは、勧告に応じなかった場合に、その次の段階として何らかの強制なり制裁なりが設けられていて初めて意味を持つ。単に文言を勧告に変えても、政府の権限の強化にはつながらず、よって世界一の数を誇る日本の病床がコロナ病床やICUへの転換が進むとは考えにくいと米村氏は言う。

 政府の権限を強化して病床の転換を進めても、人員の確保ができなければ意味がないとの指摘もあるが、これに対しても米村氏は、そもそも政府が医大の定数を抑えて医者の数を制限してきたのも、医師会などの医療界の意向を受けたものだったことを指摘。結局、医師会の政治力などとも相まって日本では医療が聖域化し、政治も行政も一切手を付けられなくなっていることの大きなツケが、今回のコロナで回ってきたのだと語る。

 実は1月13日の総理の記者会見で、ビデオニュース・ドットコムの記者の質問に対し、菅総理が意外な言葉を発したことが、一部で波紋を広げている。ビデオニュース・ドットコムからの質問で、なぜ政府は医療法を改正して、政府が医療機関に対して命令できる権限の強化を図ろうとしないのかを問われた菅総理は、医療法の問題は「これから検証する」しか答えなかった一方で、唐突に「国民皆保険も含めて検証する」と述べたのだ。これを聞いた人の中には、「質問の意味を理解できなかった総理が意味不明な事を言い始めた」とか、「総理は新自由主義的な思想的背景から、国民皆保険の廃止を常々考えていたので、本音がぽろっと出てしまったのではないか」などといった観測がネットを中心に広がった。

 しかし、厚生労働委員会の委員で医療行政に詳しい青山雅幸衆議院議員(無所属)は、あの一言は医療界に衝撃を与えたと指摘する。青山氏によると、国民皆保険は、もちろん国民にとっても無くてはならない大切な制度だが、それにも増して医療界にとっては、他の何を措いても絶対に死守しなければならない最大の利権だ。総理が場合によっては国民皆保険にまで手を出してくるというのであれば、医療法の改正や感染症法の改正によって、国の医療機関に対する権限を多少強化することくらいは容認せざるを得ないと考えても不思議はない。実際、あの発言の翌日に、感染症法の改正案の報道が流れたが、医師会や医療界から目立った反対意見は今のところ聞かれていない。恐らくあの一言が効いているのではないか、と青山氏は言うのだ。ただし、青山氏は総理があの単語を意図的に発したのか、それともあれは単なる事故だったのかについては、定かではないとも言う。

 いずれにしても、コロナの蔓延によって、日本の最後の聖域といっても過言ではない医療界の一端が、「政府は民間医療機関に対して非常時であっても病床の転換すら命じることができない」という形で表に出てきた。目の前の感染拡大にもしっかり対応しなければならないが、こうした構造問題を放置したまま、事業者や個人に犠牲を強いた上、さらにそれに強制力を持たせる法改正を行うというのは、やはり順番が逆ではないだろうか。

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