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こんなやり方では次のパンデミックは乗り切れない

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1093回)

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公開日 2022年03月19日

ゲスト

医師、特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

1968年兵庫県生まれ。93年東京大学医学部卒業。99年同大学大学院医学系研究科博士課程修了。博士(医学)。虎の門病院血液科医員、国立がんセンター中央病院薬物療法部医員などを経て、2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステムを主宰。16年より現職。専門は血液・腫瘍内科学、真菌感染症学、メディカルネットワーク論、医療ガバナンス論。著書に『日本のコロナ対策はなぜ迷走するのか』、『病院は東京から破綻する 医師が「ゼロ」になる日』など。

著書

概要

 岸田文雄首相は3月16日夜の記者会見で、全国18都道府県に出されている「まん延防止等重点措置」を、今月21日の期限をもって全面的に解除する意向を表明した。またその会見で岸田氏は、オミクロン株の感染爆発が減少傾向に入った現状について、緊急時から平時に戻る「移行期間」にあるとの認識を示した。

 「今後しばらくは平時への移行期間。最大限の警戒をしつつ、安全・安心を確保しながら、可能な限り、日常の生活を取り戻す期間とする」と岸田首相は語った。

 この日の会見で岸田首相は、今後は一般の事業所では濃厚接触者を特定しない方針を示すなど、一時は1日の感染者数が10万人を越える感染爆発の様相を呈していたオミクロン変異種による新型コロナウイルスの大流行が、ようやく収束に向かっていることへの安堵感を随所で滲ませていた。

 コロナの感染が収まってきたのが本当であれば何よりの朗報だ。岸田政権が諸外国から「鎖国」などと揶揄されても貫いてきた厳しい水際対策や、長期にわたる緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を甘受し、自主的な行動制限や感染症対策を続けてきた国民の努力の賜物と受け止めるべきだろう。

 しかし、首相が会見で示した「喉元過ぎれば熱さを忘れる」を地で行くあの安堵感は、いただけない。国民はそこまでバカではない。結局日本は実際の感染者数は欧米諸国よりも遙かに少なかったにもかかわらず、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などによって、どの国よりも長きにわたり国民が行動制限や多くの犠牲を甘受しなければならなかったことを、われわれは決して忘れてはならない。

 また、人口当たりの病床数では世界一を誇る病床大国であるにもかかわらず、日本は常に医療逼迫、そして医療崩壊と隣り合わせだった。コロナ患者を受け入れるコロナ病床数は、歴代総理や都道府県知事が口を揃えて「増やすべく鋭意努力している」と語っていたにもかかわらず、結局最後の最後までほとんど増やすことができなかった。最終的に全病床に占めるコロナ病床の割合は3%を越えることはなく、日本は少ない感染者でもただちに医療逼迫の恐れがあるとの理由から緊急事態宣言などで国民の行動を制限し続けなければならなかったのだ。

 PCR検査にしても同じことが言える。これも歴代総理が増やすよう大号令をかけたものの、「笛吹けども踊らず」状態が最後まで続いた。結果的に日本は人口当たりのPCR検査数は先進国中最低レベルにとどまったままだ。無症状者にPCR検査を行うことの是非を巡る神学論争が一部では盛んに交わされていたようだが、どんな医療の教科書を見ても、「感染源の特定」は感染症対策の一丁目一番地と書いてある。厚生労働省のウェブサイトにもそう書いてある。感染が流行した当初、日本全体で実施可能なPCR検査数が限られていた時ならともかく、民間ではいくらでも検査ができる体制が整った後も、あくまで保健所によるコントロールにこだわったために検査数が増やせず、結果的に最後まで感染の実態が正確に把握できなかったという事実を、われわれは重く受け止める必要があるだろう。検査対象を厳しく絞った結果、実は日本の感染者が本当に各国と比べて大幅に少なかったかどうかも定かではないのだ。

 医師で自らが主宰するNPO・医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏は、躊躇なく「日本のコロナ対策は失敗だった」と明言する。その上で上氏は、厚生労働省の医系技官と感染症ムラの専門家によって独善的に決定されている日本の感染症対策は、現行の感染症法が戦前からの悪しき慣習である「医療よりも社会防疫」が優先される法理の上に成り立っているため、患者一人ひとりの人権や国民生活を犠牲にすることを厭わない対策が平然と行われてきたと指摘する。

 安倍、菅両元首相は、世界一の病床数を誇る日本でコロナ病床への転換が進まず、結果的に少ない感染者数でも容易に医療崩壊を起こしてしまう日本の脆弱な医療体制について、政府は「病院にお願いするしかない」との言い訳を繰り返してきた。現行の感染症法や医療法の下では、政府が病院に対して強制的に勧告や命令を出す権限がないことを官僚から説明され、それをそのまま口移しに語っていたのだろうが、だとすると両首相とも官僚から騙されていたことになる。

 確かに現行の医療法や感染症法は、日本の全病院の8割を占める民間病院に対して政府が一般病床をコロナ病床に転換するよう命令する権限は与えていない。しかし、上氏は、公的な病院については両法がその権限を認めていることを指摘した上で、公立の病院が十分にコロナ患者を受け入れていなかった点をとりわけ問題視する。公立病院は厚労省で医療問題に対して独占的な決定権を持つ「医系技官」と呼ばれる医師免許を持つ官僚たちにとって重要な天下り先となっているため、そのような癒着した関係性から、医系技官は公立病院に対して厳しい要求を出そうとしないところに問題があると上氏は指摘するのだ。

 コロナ病床が増えないとなるとPCR検査も増やせない。現行の感染症法で2類相当に指定された新型コロナウイルス感染症は、PCR検査で陽性と判定された人は全員入院させなければならないからだ。この、事実上の強制入院制度も、医療に対する考え方が根本的に間違っているために続いているものだと上氏は問題視するが、いずれにしてもこの制度のために、コロナ患者を受け入れてくれる病院が極端に少ない日本では、検査数を増やす→陽性者が増える→医療崩壊となることが明らかなことから、「保健所がパンクするから」等々、とにかく検査数を増やさないためにありとあらゆるもっともらしい言い訳が語られた。それが、一時は一強とまで恐れられた安倍首相をもってして、「本気でPCR検査を増やすよう努力しているが、どこかに目詰まりがある」と言わしめた問題だった。

 また、医系技官にとっては、天下り先でもある保健所がPCR検査をコントロールし、そこから得られるデータを独占することは重要なことだったと上氏は言う。これだけの感染爆発を目の当たりにして、国民が自由に民間の検査機関で検査をすればいいということになってしまうと、保健所の存在意義そのものが危ぶまれる事態になりかねなかったと上氏は言う。

 要するに感染症対策の決定権を事実上独占している医系技官と呼ばれる300人ほどの官僚感染症ムラに住む専門家たちが、自分たちの利権や保身のために、病床が増やせないから検査も増やせないし、検査は保健所のキャパシティの範囲内に留めるしかない。あとは緊急事態でもマン防でも何でもいいから国民の行動を制限することで感染が抑え込めれば、現在の体制を維持することができると考えた結果が、今回の日本のコロナ対策だったということだ。

 しかしだ、もし過去の総理が政府には病床転換を強制する権限がないと官僚に騙されていたのが事実だとしても、それならば日本の全病院の8割を占める民間病院に対しても、医療非常時には病床転換を強制的に求める権限を与えるよう現行法を改正すればいいではないかと考えるのが普通だろう。国民は何のために与党に国会の過半数を与えたと思っているのだ。

 しかし、これも容易ではない。官僚の世界の実態に詳しい元経産官僚の古賀茂明氏によると、そもそも感染症法をめぐり感染症ムラが反対する法改正を提案すること自体が、霞ヶ関や永田町の現実を知る人にとっては馬鹿げた自殺行為ということになるそうだ。感染症ムラがこぞって潰しに掛かることは目に見えているし、そもそも、感染症ムラの協力なくして、感染症法の改正などできるわけがない。更に、医療に関する政府の権限を強化し、政府が医療により深々と手を突っ込むことを可能にする法改正など、日本最強の政治圧力団体である日本医師会が認めるわけがない。日本医師会の政治団体「日本医師連盟」は政治資金収支報告書で明らかになっているものだけでも、毎年2億円を超える政治献金を自民党本部や個別の与野党の国会議員に広くばらまいており、その献金額は日本の名だたる大企業が軒並み名を連ねる日本自動車工業会や日本電気工業会を大きく上回り、断トツの日本一を誇る。そればかりか地方の医師会の会長は大抵は有力政治家の後援会長などを務めており、その政治力は群を抜いている。

 感染症ムラに不都合で医師会が嫌がる法改正をできる政治家など、少なくとも自民党には、そして恐らく野党にも、いるわけがないというのが、今日の日本の政治の現実なのだ。

 つまり日本はもし次にコロナの新しい変異種や新しい感染症の嵐に見舞われることがあっても、また同じ愚策を繰り返すことになる。国民はまた泣かされる覚悟をしておくしかないということだ。

 今回は強制もされないのに、となり組を彷彿とさせるような相互監視能力まで発揮して世界が驚くまでに従順に政府からの「お願い」に唯々諾々と従った国民の多大な努力と犠牲、そして巨大な財政支援によって、日本はここまでの新型コロナウイルス感染症は何とか克服しつつあるかもしれない。しかし、次のパンデミックは国民の涙ぐましい努力と犠牲だけで乗り越えられるほど甘くはないかもしれない。

 仮に岸田首相が会見で述べたように、コロナの猛威が一段落したのであれば、今こそ日本のコロナ対策の問題点とその背後にある意味不明で非効率な利権癒着を洗い出し、次のパンデミックに備えるべきではないか。

 今週は自らが医師でありながら、日本の医療の構造的問題に容赦無い厳しい提言を繰り返す上昌広氏とともに、新型コロナで露わになった日本の医療界のあからさまな利権や癒着構造を洗い出した上で、それを改善するためにようやく「平時」を迎えつつ今こそ何をしなければならないかなどについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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