2016年12月3日
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美濃加茂の逆転有罪判決と米大統領選再集計問題を掘り下げる

木村草太氏(首都大学東京都市教養学部教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第817回(2016年12月3日)

 今週はその週のニュースを深掘りするニュースマル激。

 今週のテーマは、(1)美濃加茂市長収賄事件の逆転有罪判決の疑問点とその影響、(2)保守派ほど天皇陛下の生前退位に反対する理由、(3)米大統領選挙・ウィスコンシン州の再集計が露わにする電子投票の問題点の3つのニュースを、憲法学者の木村草太氏とともにジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が掘り下げた。

 美濃加茂市長収賄事件は、大方の予想に反して藤井浩人市長に逆転有罪の判決が下った。判決自体も多くの疑問が残るものだったが、より深刻なのがその影響だ。

 市民からの声を吸い上げ、それを実現すべく尽力した政治家が、後にその市民から「カネを渡した」と一方的に言われ、贈賄罪に問われたのがこの事件だった。実際、藤井氏は名古屋の会社社長から災害時に学校のプールに貯めた水を浄化して生活用水に利用することを可能にする浄水システムを紹介され、もともと震災対策に強い関心を持っていたことから、その導入のために尽力していた。後にその社長が別の詐欺事件で逮捕され、警察との取り調べの中で一方的に「藤井にカネを渡した」と証言したために、藤井氏は現職の市長のまま逮捕されていた。

 この裁判では、藤井氏が会社社長から現金を受け取っていたことを裏付ける物証は何も出ていないため、カネを渡したという会社社長の言い分と、もらっていないという藤井氏側の言い分のどちらがより信用できるかが、唯一の争点となった。

 これが有罪になるようでは、政治家は業者や市民からの提案を受け、その実現のために積極的に動くことが大変なリスクとなってしまう。その市民が後に「カネを渡した」と言い出した時、実際にカネを受け取っていないことを証明することは容易ではない。提案を実現するために尽力している以上、収賄罪を構成する「請託」と「受託及び政治権限の行使」があったことは容易に証明できてしまうからだ。

 また、今回の事件は贈賄側の会社社長と検察の間に、事実上の司法取引が行われていた疑いが持たれていた。4億円近い金融詐欺で逮捕された会社社長が実際には2000万円分しか起訴されず、その取り調べの中で突如として藤井氏への贈賄の話が出てきたことから、会社社長が検察から「藤井への贈賄を認めれば、金融詐欺の方は軽くしてやる」などと取引を持ち掛けられていた可能性を、弁護側は強く追及していた。実際、会社社長自身が、逮捕勾留中、拘置所で隣の房に勾留されていた別の事件の被疑者に、検察との取引内容を打ち明けていたことも、裁判の過程で明らかになっていた。

 検察にとってはケチな金融詐欺よりも現職の市長を巻き込んだ汚職事件の方が、事件としての価値は遥かに高い。検察幹部や担当検事にとって、より大きな手柄になるということだ。一方、詐欺事件で逮捕されている会社社長も、刑が減刑されるのであれば、その取引に乗らない手はない。

 当事者の証言のみで、そのような裏取引までが疑われた事件で、現職市長に逆転有罪判決が下ったことの影響は計り知れない。

 先の国会で刑事訴訟法が改正され、日本にも正式に司法取引が導入された。これにより、一つの事件の立証につながる証言をすれば、別の事件での求刑を軽減したり、不問に付すなどの取引を、検察は堂々と持ちかけられるようになった。

 それが実際にどのように運用されるかはまだ未知数だが、美濃加茂市長の事件は現在の日本における司法取引の危うさを再認識させるのに十分なものだった。

 次に、天皇陛下が生前退位の意向を示されたことを受けて、政府がその対応を検討している問題では、有識者会議が16人の専門家から相次いでヒアリングを行い、その結果が今週出揃った。様々な意見が出された中で、今回のマル激では、なぜ日頃から天皇への尊崇の念を強く表明している保守派の論客ほど、陛下ご自身の意向を無視するかのような意見を表明しているのかに注目した。

 実際、保守派の論客として知られる渡部昇一上智大学名誉教授、大原康男国学院大学名誉教授、八木秀次麗澤大学教授、ジャーナリストの櫻井よし子氏らはいずれも陛下の生前退位に反対するのみならず、陛下ご自身の意思での退位を認めるべきではないとの考えを示すなど、陛下の思いや人権を無視したかに見える発言を繰り返しているのはなぜか。

 最後は米大統領選挙の再集計問題。現在ウィスコンシン州で再集計が行われており、ミシガン州とペンシルベニア州でも再集計の請求が出されている。この3州は11月8日の本選ではいずれも僅差でトランプが勝利しており、その選挙人数を合計すると36となる。もし再集計の結果、3州全てでクリントンが逆転すれば、大統領選挙の結果がひっくり返る計算となる。

 今回の再集計は大統領候補の一人だった緑の党のジル・スタイン氏からの請求を受けたものだが、スタイン氏は再集計を請求した理由として、ミシガン大学のアレックス・ハルダーマン教授らのグループが、今回の選挙で電子投票に使われたコンピューターがハッキングなどによって操作されていた可能性があることを指摘したことを受けたものであることを明らかにしている。

 ウィスコンシン州の再集計の結果が、当初の投票結果と大きく異なるものになった場合、ハッキングの疑いが濃厚となり、他の州でも再集計を求める動きが出る可能性がある。その意味で、ウィスコンシン州の再集計は重大な影響を与える可能性がある。

 
木村 草太きむら そうた
首都大学東京都市教養学部教授
1980年神奈川県生まれ。2003年東京大学法学部卒業。同大学法学政治学研究科助手、首都大学東京都市教養学部准教授を経て16年より現職。著書に『憲法の創造力』、『憲法の急所』、『平等なき平等条項論』、共著に『憲法という希望』など。 817_kimura

 

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