2022年03月01日公開

ウクライナへの合理性を欠いた軍事侵攻はプーチンが追い詰められていることの裏返しだ

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ゲスト

元外交官、元駐ウズベキスタン大使
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1947年東京都生まれ。70年東京大学教養学部卒業。同年外務省入省。ハーバード大学大学院ソ連研究センター、モスクワ大学文学部留学、外務省東欧課長、ボストン総領事、ロシア特命全権公使、駐ウズベキスタン大使兼タジキスタン大使などを経て退官。現在、東京大学客員教授、早稲田大学客員教授、東京財団上席研究員など。著書に『ロシア皆伝』、『ワルの外交』。『米・中・ロシア虚像に怯えるな』、訳書に『ロシア新戦略-ユーラシアの大変動を読み解く』など。

著書

司会

概要

 アメリカが「いつ大規模な軍事侵攻が起きてもおかしくない」と警鐘を鳴らし続ける中、ロシア専門家の多くは、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻はまずないだろうと、やや高を括っていた。仮に軍事力で相手を圧倒したとしても、軍事侵攻はプーチンにとって決していい結果をもたらさないと考えられたからだ。また、万が一何らかの軍事衝突が起こったとしても、ウクライナ東部2州での限定的な衝突にとどまるだろうという見方が有力だった。

 元外交官でロシア専門家の河東哲夫氏も、ロシアがウクライナ全土まで戦火を拡げることはないだろうと考えていた専門家の一人だ。河東氏は、仮にロシアが一時的にでもウクライナを軍事的に支配し、ロシアの傀儡政権を設置できたとしても、ウクライナのみならず国際社会全体から激しい指弾を受けることは必至で、早晩、ロシアもウクライナも立ち行かなくなる可能性が大きいと見る。ウクライナをNATOに加盟させたくないとの理由からここまで全世界を敵に回す行為は、ロシアにとって損得勘定だけでは成り立たないものということだ。

 河東氏はまた、プーチンはウクライナへの軍事侵攻以前に、外交面でも内政面でも多くの問題を抱えており、今のロシアが独力でウクライナ全土を長期にわたり支配し続けることは難しいと指摘する。

 しかし、それではなぜプーチンはあえて軍事侵攻を選んだのか。

 河東氏は「やるなら今しかないと考えたのだろう」と語る。2014年にロシアがクリミア半島を併合した時、ウクライナ軍はとても脆弱でロシア軍相手にほとんどまともな戦いができる状態ではなかった。しかし、その後、ウクライナにはアメリカから15億ドル(約1700億円)の軍事支援と最新の武器が提供され、軍の部隊も大幅に強化されてきた。その一方で、ゼレンスキー大統領はアメリカの方ばかりを向いていて、ミンスク合意の履行はおろかロシアに対する敵対的な姿勢を一向に変えそうにない。このまま時間が経てば、ウクライナ軍はより強化され、ロシアは半永久的にウクライナに対する影響力を失いかねない。それがプーチンが「今しかない」と考えた理由だと河東氏は言う。

 実際、このまま内憂外患な状態が続けば、プーチンは2024年の大統領選挙での再選が危ぶまれるところまで追い詰められていた。ウクライナに大規模な軍事侵攻を行い、あわよくば首都キエフを占領した上でロシアに有利な和平合意に漕ぎ着けることができれば、国内的にも大きなポイントを稼げるし、ソ連邦の崩壊以来、西側陣営に着実に削り取られてきたロシアの影響圏の縮小に歯止めがかけられるかもしれない。帝政ロシア時代から拡張主義的発想が染みついているロシアにとっては、影響圏の維持に対する強い思いは、われわれ日本人の想像を遙かに超えたものだという。

 しかし、プーチンにとって、既にいくつか誤算が始まっている。まず、恐らく当初のロシアの予想を超えるウクライナ軍の激しい反撃に遭い、ここに来てロシア軍の進軍スピードが鈍ってきている。簡単にキエフを陥落させた上で有利な和平合意に持ち込むというプーチンの想定したシナリオ通りには、事が進まない可能性がでてきた。また、今回アメリカが軍の部隊を派遣しなかったことで、アメリカが世界の警察官の役割を任ずる意思がないことがあらためて示されたことが指摘されているが、今回はその分、西欧諸国がヨーロッパ全体の安全保障に非常に前のめりな姿勢を見えるようになった。特に大国のドイツが第二次世界大戦後、一貫して自重してきた武器輸出を解禁し、軍事支出の大幅拡大に転じる姿勢を見せている。ロシアのウクライナへのあからさまな侵略が、ドイツの欧州における軍事プレゼンスを一気に拡大させるという副作用をもたらす結果を生みそうな雲行きだ。これもまたプーチンにとっては誤算だったにちがいない。

 河東氏にウクライナへの軍事侵攻に対するプーチンの皮算用と、考え得る今後のシナリオなどについて、ジャーナリストの神保哲生が聞いた。

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