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2008年08月09日公開

それでもドーピングは止まらない

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第384回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
(終了しました)

ゲスト

1960年大阪府生まれ。83年同志社大学法学部卒業。会社勤務を経て、94年より文筆業へ。98年第 6回ナンバー・スポーツノンフィクション新人賞を受賞。著書に『果てなき渇望』、『速すぎたランナー』、『父と子の受験合格物語』など。

著書

概要

 北京五輪は史上最多の参加国と史上最多の参加者を誇る史上最大の五輪と言われるが、同時に、史上最多のドーピング五輪となる可能性が高い。過去最多となる26人のドーピングによる失格者を出した前回のアテネ五輪では、28競技3667人が検査対象となったが、北京五輪では、それを大幅に上回る4500人がドーピング検査を受ける。中国のオリンピック委も917人の検査官を動員して、ドーピングを徹底的に摘発する姿勢を見せている。
 各国がドーピングの摘発に躍起になる背景には、ドーピングにさまざまな副作用や後遺症があり、またそれが長期にわたることがある。同時に、ドーピングが横行すると、スポーツのフェアなイメージが損なわれるリスクも犯すことになる。
 しかし、なぜそれでもドーピングは無くならないのか。ドーピングに詳しい作家の増田晶文氏によると、ドーピングがはびこる背景には、選手として最高レベルに達することを渇望するアスリートの本能と、商業主義の蔓延の2つの要素があると言う。特に商業主義は、選手が金メダルや世界記録を出せば、その選手のみならず、コーチや所属団体までが莫大な金銭的メリットを享受できるため、数々のリスクを冒してでもドーピングの誘惑は強いのが実情だと言う。
 ドーピングと言えば、ソウル五輪の男子100メートル走で世界記録を出しながらドーピング検査で陽性が出て失格となったベン・ジョンソンが有名だが、増田氏は、当時ベン・ジョンソンが使用したとされる筋肉増強剤のアナボリック・ステロイドは、今はむしろ時代遅れのドーピングに数えられると言う。
 今日最も多く使われているドーピングは、エリスロポエチン(EPO)などの増血剤とヒト成長ホルモン(HGH)と呼ばれる筋肉増強剤で、これらは筋肉の発達を促したり、持久力を高めたりする効果がある一方で、EPOでは高血圧や血栓症、ヒト成長ホルモンでは心臓の異常や臓器肥大など深刻な後遺症も抱えている。
 選手達は、こうした薬物を使いながら、それを隠蔽するために、さまざまな手段を使う。利尿剤を使い競技日に合わせて体内から薬物を消していく手法が一般的だが、中には、自分の肛門の中に別の人の尿を入れた袋を隠し持ち、尿検査の際に、素早くそれを取り出して提出しようとする選手までいたという。しかし、近年検査がより徹底されるようになり、尿のすり替えも難しくなっている。これが、近年ドーピングの摘発が増えている背景にもある。
 そして増田氏は、北京五輪では遺伝子ドーピングと呼ばれる新しいドーピングが登場すると予見する。これは、特定の遺伝子に働きかけることで、特定の筋肉を発達させたり、特定の運動能力を向上させたりすることが可能になるというもの。検査で摘発することも難しいため、究極のドーピングになる可能性がある。
 WADA(世界アンチ・ドーピング機関)は遺伝子ドーピングも、特定の遺伝子の動きを抑えたり、活性化させるための薬剤が必要になるため、検出は可能だと言うが、そのためにどのような薬剤が使われるか、全てがわかっているわけではない。どう考えてもこれはイタチごっこの感が否めない。そして、そのイタチごっこは常にドーピングを使用する側が先手を打っているのが実情だ。
 また、ドーピングをそこまで厳しく禁止することのコストやその合理性を考える必要があるとの指摘もある。もし選手が後遺症や副作用を承知の上で、それでもドーピングを使用したいと考えた時、それをどうしても禁止しなければならない理由はどこにあるのか。そもそも、選手をドーピングにまで走らせる根底には、オーディエンスである私たち一人一人が、実は超人的なパフォーマンスを期待しているという現実があるのではないか。それを無視して、商業主義を批判したり、ドーピングを批判しても、建設的な解決策は出てこないのでは無いかと、増田氏は問う。
北京五輪を横目で睨みながら、ドーピングの実態とその背景にある、天賦の才を得たアスリート達をドーピングにまで走らせるスポーツの現実を増田氏と考えた。

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