2009年2月7日
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世界の魚を食い尽くす日本人の胃袋

井田徹治氏(共同通信科学部編集委員)
マル激トーク・オン・ディマンド 第409回

 日本政府は1月30日、マグロ漁の国際的な漁獲規制が強化されたことを受け、国内のマグロはえ縄漁船の数を1〜2割減らす方針を明らかにした。乱獲によるマグロの資源枯渇という事態を受け、昨年11月の大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)、12月の中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)と、相次いでマグロの漁獲量の削減が国際的に決まっていた。
 巷では、こうしたニュースを受けて、いずれ日本人が大好きなマグロが食べられなくなる日が近づいているかのような不安を煽る言説が、メディアを中心に流布されている。確かに、マグロのみならず、世界の漁業資源は急速に枯渇に向かっているし、これまでのように好きな魚がふんだんに手に入らなくなる可能性も、日に日に高まっているのは事実だ。しかし、メディアが報じていないもう一つの重大な問題がある。それは、われわれ日本人こそが、世界の漁業資源を食い尽くしている張本人であるという紛れもない事実だ。
 今、マグロの中で最も枯渇が懸念されているのは高級魚のクロマグロとミナミマグロだが、現在世界に流通するクロマグロの何と8割、ミナミマグロにいたってはそのほぼ10割を日本が消費している。メバチマグロやビンナガマグロ、キハダマグロなどを含めたマグロ全体でも、世界人口の60分の1に過ぎない1億2千万人の日本が、世界の年間漁獲量の3割を消費しているのが実情だ。
 これはマグロに限ったことではない。日本は全世界で消費されるウナギの7割、たこの3分の2、いかの3分の1を消費するいずれも世界最大の消費国だ。魚全般で見ても、03年の世界の一人当たりの水産物消費量が年間約16kgであるのに対し、日本人は毎年一人当たり約65kgもの魚を消費している。消費量の総量では日本の10倍以上の人口を抱え、急速に豊かになる中国に世界一の座を譲ってはいるが、国民一人当たりでは、モルジブやアイスランドなど消費量が極端に少ない国を除けば、日本は文句無しに世界一のシーフード消費大国なのだ。マグロの漁獲制限に見られるような世界的な潮流は、早い話が、日本人の胃袋が人類共有の資源である魚を食い尽くしてしまうのを、黙って見ているわけにはいかないとの問題意識から生じていると言っても、決して過言ではないのだ。
 もちろんそのような基本的な情報がメディアに流れないのも重大な問題だが、多くの日本人は自分たちこそが、世界中の漁業資源を食い尽くしている張本人であることを知らずに、日々スーパーマーケットや回転寿司で魚の消費を続けていることになる。
 地球環境の視点から漁業問題を長年取材してきた共同通信科学部編集委員の井田徹治氏は、基本的には商業ベースの乱獲に問題があることを指摘すると同時に、かつて庶民にとって貴重品だったトロやウナギ、エビといった高級食材が、今やスーパーや回転寿司で安値で売られるようになっていることに対して、何の疑問も感じずにそれを受け入れ、欲しいままにそれを享受してきたわれわれ日本人の消費者としての感覚にも問題があると語る。
 言うまでもなく漁業資源は、貴重な地球の天然資源だ。持続性を超えて消費をすれば、時間の問題で資源は枯渇する。もともと魚は、そのような商業ベースの大量生産・大量消費に耐えうる資源ではなかったのだ。しかし、魚を獲ってくれば高く売れる状態が続いたため、乱獲にも、そして大量消費にも歯止めがかかることはついぞなかった。そして、いよいよ外部から強制的に制限を受けるところまで事態が悪化してしまったというのが、今日のマグロ規制の意味するところなのだ。
 今日、資源枯渇と漁業規制に挟まれて、魚が獲れなくなった日本は、大量の魚類を海外から輸入するようになっている。既に魚類の自給率も5割台まで落ち込んでいる。しかも、輸入クロマグロでは半分以上が、畜養と呼ばれる、海外で養殖されたマグロが占めるようになっている。しかし、産卵前の稚魚や幼魚を大量に捕獲して育てる畜養は、環境負荷も高いことに加え、安全性にも疑問符が付けられている。
 現状では、外的な規制が次第に厳しくなるのを座して待つか、もしくは消費者の自覚に期待するかのいずれかしかないが、情報が十分に公開されていない中では、消費者が賢明な選択をするのも難しい。そうした中にあって、井田氏は消費者の助けとなる好ましい動きも出てきているとして、海のエコラベルとも呼ぶべきMSC(海洋管理協議会)の認証マークを紹介する。これは、資源の枯渇を招くような捕獲方法を用いたり、環境に大きな負荷をかけていないことを証明する国際的な証明書で、日本でも徐々にではあるが、普及が始まっているという。
 今週は井田氏とともに、マグロ規制が示している日本人の異常とも言える現在の魚の消費のあり方と、それが招いた世界の漁業資源の現状、そして、そうした状況とわれわれは今後どうつきあっていけばいいのかなどを、考え直してみた。

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井田 徹治いだ てつじ
(共同通信科学部編集委員)
1959年東京都生まれ。83年東京大学文学部卒業。同年共同通信社入社。科学部記者を経て01年から04年まで、ワシントン支局特派員(科学担当)。08年より、現職。著書に『サバがトロより高くなる日』、 『ウナギ』など。 409_ida

 

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