2014年8月30日
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5金スペシャル
カシミール、パレスチナ、世界の紛争の根っこにあるもの

伊勢崎賢治氏(東京外国語大学大学院教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第698回

 5週目の金曜日に特別企画を無料でお届けする恒例の5金スペシャル。今回の5金では世界で起きている武力紛争について、関連映画を参照しながら考えた。
 インド、パキスタンの国境付近に位置するカシミール地方は、1947年にインドとパキスタンがイギリスから独立して以来、常に二国間の紛争の種だった。カシミールは住民の大半こそイスラム教徒だが、10以上の言語が存在し、中央アジア、特にアフガニスタンとの地域的な共通性を持っているなど、多様な文化が混在している地域だ。現在のカシミール紛争は、この地を治めていたヒンドゥー教徒の藩王(マハラジャ)が、独立に際してインド、パキスタンのいずれに属するかを明確にせず中途半端な状態にあったところ、イスラム教徒のパシュトゥーン人勢力に侵攻を受け、あわててインド側に帰属することと引き換えに武力による保護を求めたことが発端となっている。その後、カシミールはインド、パキスタンの独立後も3次にわたる印パ戦争の舞台となり、局地的な武力衝突も後を絶たない。最近ではイスラム原理主義勢力がカシミールのパキスタン側に入り、自爆テロなども起きるようになってしまった。
 世界の紛争地で武装解除などの任務に携わり、カシミールも度々訪れている東京外国語大学大学院教授の伊勢崎賢治氏は、カシミールは現代テロの起源であると言う。特に1990年前後から、カシミール紛争に乗じてイスラム過激派がこの地に浸透し、それまでこの地域では見られなかった自爆テロが起きるなど、紛争が聖戦として捉えられるようになってきたと解説する。インドは陸軍の半分をカシミールに投入し、治安組織や現地警察勢力も加えると地域住民の実に5分の1にも相当する90万人の軍・警察・治安関係者によって、地域の安定を維持している状態だという。
 ここで取り上げた映画『アルターフ 復讐の名のもとに』は、カシミールが舞台のインド映画だが、登場人物の背景を、カシミール情勢に照らして考えていくとまた違った見方が出来る作品だ。暴漢に家族を殺されたイスラム教徒の主人公は、事件の捜査を担当したヒンズー教徒の警察署長に引き取られて育てられていたが、ある日、その養父が自分の家族を殺した覆面の男だったことが分かり、復讐を誓ってテロを計画するという物語だが、そこにもカシミール情勢の複雑さが垣間見える。インド映画特有の踊りと音楽が取り入れられたアクション作品だが、登場人物の出自や立場をカシミール情勢と重ねて考えることで、また違った見方ができる作品でもある。
 今回の5金スペシャルで取り上げたもう1つの映画は、パレスチナ人ラッパーの活動を取り上げたドキュメンタリー映画『自由と壁とヒップホップ』だ。パレスチナ人ヒップホップグループ「DAM」が、パレスチナ特有の困難や制約の中で活動する姿を追ったこの作品は、イスラエルとの対立構図だけではなく、パレスチナ人同士にも存在する互いの遠慮や差別、世代間の考え方の違いなどパレスチナ社会が抱える問題が描かれている。パレスチナ情勢は現在も短期間の停戦をはさみながら、イスラエル軍による空爆や、パレスチナ過激派によるテロが繰り返されているが、もはやユダヤ教とイスラム教の宗教対立という視点からだけでは捉えきれない複雑さが存在し、カシミールと同様に解決の糸口を見出すことが困難になっている。
 その他、世界にはカシミールやパレスチナのような地域紛争が無数にある。冷戦が終わり、より豊かな世界が実現するはずだった21世紀になっても、紛争は一向に減らないばかりか、ますます増え続けている。なぜ紛争はなくならないのか。冷戦というイデオロギー対立が終結した今、世界の紛争の根本にあるものは何なのか。ゲストの伊勢崎賢治氏とともにジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

 
伊勢崎 賢治いせざき けんじ
(東京外国語大学大学院総合国際学研究科教授)
1957年東京都生まれ。86年早稲田大学大学院理工学研究科都市計画専攻修了。99年国連主催DDR特別運営委員会日本政府代表、00年東チモール暫定統治機構県知事、01年国連シエラレオネ派遣団武装解除統括部長などを経て、03年〜04年日本政府特別顧問としてアフガニスタンの武装解除を指揮。立教大学21世紀社会デザイン研究科教授などを経て09年より現職。 著書に『武装解除—紛争屋が見た世界』、『日本の国際協力に武力はどこまで必要か』など。 342_isezaki
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