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2015年02月14日公開

貧困なる貧困対策から脱するために

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第723回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
(終了しました)

ゲスト

日本女子大学人間社会学部教授

1947年東京都生まれ。69年日本女子大学文学部社会福祉学科卒業。71年中央大学大学院経済学研究科修士課程修了。大阪市立大学家政学部助手、東京都立大学助教授、同大学教授などを経て98年より現職。博士(社会福祉学)。著書に『社会的排除−参加の欠如・不確かな帰属』、『現代の貧困−ワーキングプア・ホームレス・生活保護』など。

著書

概要

 安倍政権が2月12日に提出した2015年度予算案では、一般会計の総額は過去最高の96兆3420億円にのぼり、社会保障費も31兆円台にまで膨らんでいる。しかし、世界で有数の格差大国となっている日本にとって最優先課題であるはずの貧困対策は減額されている。
 日本における貧困対策の大半を占める生活保護費は受給者が216万人まで増加しているのに対し、歳出額の方は前年から180億円も減額されている。これは厚生労働省が給付基準を見直して、住居費と冬期の暖房費の支給基準を引き下げたことによるものだが、社会保障費を削減するための象徴として生活保護費をカットしようとの財政当局の思惑が見え隠れし、貧困対策の本来の目的が損なわれているのではないかと、社会保障問題や貧困対策に詳しい日本女子大学教授の岩田正美氏は懸念を表明する。
 実際に住宅費や暖房費分が削られた今年度の生活保護の支給基準についても、岩田氏が副座長を務める厚生労働省の社会保障審議会生活保護基準部会での議論の内容が正確に反映されないまま、政府の独断で変更されていると岩田氏は言う。
 どうも、安倍政権は財政再建を掲げながら必要性が疑わしい公共事業や防衛費の方は増額する一方で、貧困対策、とりわけ生活保護をスケープゴート化しているように見えてならない。
 生活保護費に代表される貧困対策は、財政負担が大きい上に受給者の働く意欲を削ぐなどの批判がある。しかし、岩田氏は、病気や失業によって収入が得られなくなった時、政府が最低限の生活を保障していることは、その社会にとっては重要な意味を持つと言う。最低限の生活さえも保障されないとなると、たまたま日本で生まれたということ以外に、日本の国民でいることの意味が見いだせなくなってしまう。また、社会の中に、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を営めない人を一定数抱えることは、社会の連帯を揺るがす不安定要素となる。
 また、生活保護を受けていない人たちの間では、生活保護受給者が税金で生活を支えてもらっていることに対する不公平感があると言われる。しかし、現在の生活保護費の歳出額が年間3兆円弱であるのに対し、日本国民のほとんどが何らかの形で依存している社会保険や年金の国庫負担の総額は30兆円を超えている。生活保護の受給者に限らず、日本人であれば誰もが大なり小なり税金によって日々の生活を支えられていることを、忘れてはならないだろう。
 ところが日本の問題はもう少し厄介なようだ。なぜならば、日本ではそこで言う「最低限度の生活」がどの程度のものになるのかについて、国民的なコンセンサスを得ることができていないのだと岩田氏は言う。有識者の間でさえ、一旦その議論を始めると、「台所の流しの三角コーナーは最低限の生活に必要かどうか」といった各論に嵌まってしまい、合意できる最低限の生活のモデルを作ることが難しいのだという。そのコンセンサスがないために、必要最低限ぎりぎりか、あるいはそれ以下の生活しか支えられないような給付基準が依然として容認され続け、それでも多くの人が不公正感を拭いきれないというような、不幸な状況が続いているのだという。
 しかし、現実には既に日本の貧困率は16.1%という先進国の中では最悪の部類に入るところまで状況は悪化している。日本人の2000万人足らずが貧困状態にあることになる。それに対して、生活保護の受給者は近年増加したといっても依然200万人強にとどまり、生活保護を必要としている人のうち実際に給付を受けている人の率を示す捕捉率も依然として2割前後だと言われている。そもそも政府が貧困世帯の数さえ正確に捕捉できていないというのが日本の貧困対策の実情なのだ。
 現行の生活保護費の給付基準が、最低限の生活を保障していると言えるかどうかについても疑問が残るところに、捕捉率は2割にとどまるという世界でも類を見ないほどの貧困者切り捨て政策をとっていながら、政府はさらなる生活保護の削減に躍起になっている。一番困っている人たちの給付でさえ削られていることを見せられれば、他の社会保障を削ることが正当化しやすくなるからだ。
 岩田氏は貧困対策がもっぱら生活保護に依存しているところに、日本の貧困対策の決定的な欠陥があると言う。海外では世代別にセーフティネットが用意され、それに失業対策や自立支援などの制度が組み合わされて現金給付やサービス給付が行われている国も多い。しかし、日本では全てを「生活保護」のみでカバーしようとするため、財政的な理由から生活保護費の削減が求められるようになり、生きる上で死活問題となる本当に必要な扶助まで削られてしまうことになりかねない。
 岩田氏はまた、「単給」の必要性を強調する。生活保護と一言で呼ばれるが、実際は生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助の8つの異なる扶助項目から成り立っている。生活保護という形ですべてを一緒くたにして給付するのではなく、必要としている扶助項目だけを個別に給付することを可能にする制度が「単給」だ。ある時はその中の一つを利用し、また別の時はその中の別の扶助を利用するというような形で「単給」が可能になれば、失業、病気、年齢などによって、本当に助けを必要としている人に対して必要な時に必要な扶助が行われることが期待できると岩田氏は言う。
 先進国でもっとも格差が大きな国になりつつある一方で、財政が次第に危機的な状況を迎えつつある日本において、われわれは社会のセーフティネットをどう構築していくべきなのか。日本人として保障されるべき最低限の生活とはどんなものなのか、それを実現するために今、われわれには何が必要なのか。日本の貧困対策の現状と課題について、ゲストの岩田正美氏とともにジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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