2017年9月2日
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ビットコインが変えようとしているもの

岩村充氏(早稲田大学大学院教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第856回(2017年9月2日)

 何やらビットコイン周辺が喧しくなってきた。

 仮想通貨「ビットコインの価格が急騰しているそうだ。システムの変更をめぐる事業者間の対立が分裂騒動に発展し、一時は20万円近くまで値下がりしていたビットコインだが、その後、大きな混乱がなかったことから取り引きが急増。最大手の取引所「ビットフライヤー」での取引価格が8月30日には1BTC(BTCはビットコインの単位)あたり50万円を超えて最高値を更新したという。

 一方、ビットコインを支払いに使える店舗も徐々に増えてきている。中国の観光客の利用を当て込んで日本では、ビックカメラやメガネスーパー、DMM.comなどがビットコインによる支払いの取り扱いを始めたことがニュースになった。

 中国を中心に世界で利用が進んでいるビットコインだが、日本では2014年にビットコイン取引所「マウントゴックス」が破綻して、利用者に大きな被害が出たこともあり、まだ不安を持つ人が多いのではないか。

 ビットコインは一般に「仮想通貨」とか「暗号通貨」と呼ばれるが、その仕組みはわれわれの従来の「通貨」の概念を覆すもので、やや謎に満ちている。なぜならば、ドルや円などの既存の通貨と異なり、この通貨はバーチャル(仮想)であると同時に、どこか特定の国に属さず、参加者自身が作ったルールによって運用されているものだからだ。

 『中央銀行が終わる日 ビットコインと通貨の未来』などの著書のある早稲田大学大学院の岩村充教授は、野球やサッカーと同じように、ビットコインは参加者たちが決めたルールによって運用されているもので、最初に集まった少人数の人々が決めたルールに則って普及していったので、特定の国の政府や企業のコントロールを受けないのが特徴だそうだ。

 とは言えビットコインも通貨だ。他の通貨が通貨としての価値を持つのは、発行した政府の信用の裏付けがあるからだ。ビットコインの価値は何によって裏付けられているのか。

 実はビットコインには独特な、そして素人目にはやや謎めいたカラクリがある。ビットコインは10分ごとに数式の問題が発生し、それを最初に解いた人に12.5BTCが発行されることで、新たなビットコインが市場に投入される仕組みになっている。その問題を解く能力は保有するコンピュータの処理能力に依存し、より多くのCPUを稼働させた人が最初に問題の解を見つけられる可能性がより高くなるように設計されている。その解を見つけるためにかかる手間をPOW(Proof of Work=手間の証明)と呼び、手間をかけたことの対価としてビットコインが与えられるというのだが、岩村氏によると、そこで言う「手間」というのは要するに、それだけのコンピュータを動かすことによって発生する電気代のことなのだそうだ。

 これはかつての金鉱山の採掘と似ている。金の価値は金を採掘するコストに裏打ちされている。需給関係によって金の価値が上昇すれば、ある程度の採掘コストをかけてでも金を掘り出す価値が出てくるが、金の価格が安くなり採掘コストが金の価格を上回るようになると、わざわざ損をするために金を採掘する人はいなくなり、金の流通量が増えなくなるので、再び需給関係が調整される。ビットコインを獲得するために10分ごとに発生する数式を解いてビットコインを掘り当てようとする作業をマイニング(採掘)、それを行う人をマイナー(採掘人)と呼んでいるのはそのためだ。

 ビットコインのマイニングのために出される数式問題は「ハッシュ関数」を使った、一般人には意味不明な数字とアルファベットの羅列だが、岩村氏によるとこれは数学的にはそれほど難解なものではなく、時間さえかければ誰にでも解ける問題なのだそうだ。解を順番に当てはめていけばいつかは見つかる問題なので、コンピュータの処理速度が早い方が他の人よりも先に解に辿り着く可能性が高くなる。より多くのCPUを動員した人が、より早く解を見つけられる可能性が高くなるわけだ。

 このような方法で、現時点では10分ごとに12.5BTCのビットコインが新たに発行されているが、この発行ペースもほぼ4年毎に半分になっていくようにルールが設定されている。これはちょうどオリンピックイヤーごとに半分になっていく計算で、東京五輪が開かれる2020年にはマイナーが問題を解くことで得られるビットコインは現在の半分の6.25BTCになる。この方法で行くと2141年には、金の埋蔵量が枯渇するのと同じように、計算上は新たなビットコインが発行されなくなる。

 ビットコインのこのようなルールも、将来は変わっていく可能性はある。結局のところビットコインのルールは運用者たちが決めていることだからだ。また、今のところ「ビットコイン」という特定の仮想通貨に多くの注目が集まっているが、世界には既に1000種類以上の仮想通貨が存在する。ビットコインの欠点を改良した新たな仮想通貨が登場し、ビットコインに取って代わり主役の座に座ることも十分にあり得る。

 将来、何が仮想通貨のディファクト・スタンダードとなるかはわからないが、ビットコインには既存の通貨になる多くのメリットがあることは事実だ。また、その値動きの激しさ故に、投資・投機が目的でビットコインを売買している人も増えている。そこがビットコインの魅力でもあるわけだが、あまりにも投機目的での利用が主流になってしまうと、当局の規制が入るなどして、ビットコインの画期性が損なわれてしまう恐れもある。

 ビットコインは何を変えようとしているのか。国家の専権事項だった貨幣発行の独占権が揺らぐことはあるのか。そもそも通貨とは何なのかという基本的な問いにも触れるビットコインについて、岩村教授とジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

 
岩村 充(いわむら みつる)
早稲田大学大学院経営管理研究科教授
1950年東京都生まれ。74年東京大学経済学部卒業。同年日本銀行入行。営業局・総務局・ニューヨーク駐在員、企画局兼信用機構局参事などを経て、98年早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授に就任。16年より現職。著書に『貨幣進化論―「成長なき時代」の通貨システム』、『中央銀行が終わる日 ビットコインと通貨の未来』など。 856_iwamura

 

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