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LINEはそんなに危ないのか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1052回)

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公開日 2021年06月05日

ゲスト

フリーライター、ジャーナリスト

1971年福井県生まれ。東京理科大学理工学部数学科中退。大学在学中より執筆活動を開始し現在に至る。専門はIT分野全般。著書に『ソニーとアップル 2大ブランドの次なるステージ』、『ネットフリックスの時代 配信とスマホがテレビを変える』など。

著書

概要

 結局のところLINEはそんなに危ないのか。他のアプリと比べてどうなのか。そもそもこれはLINEに限ったことではなく、ネットを利用する限り不可避なリスクと考えるべきものなのか。もし仮にそうだとしたら、われわれはそのリスクに対する自覚が麻痺してきてはいないか。今回はそんな疑問をITライターの第一人者の西田宗千佳氏にぶつけた上で、ではどうするべきかなどを議論してみた。

 今年3月、通信アプリのLINEの中国内にあったサーバーに保管されていた個人情報が中国国内で閲覧可能になっていたことを朝日新聞が伝えると、これまで無節操にLINEを利用してきた中央官庁や地方公共団体などが一斉に行政サービスにおけるLINEの利用停止を発表するなど、あたかもLINEという通信サービスが危険なものであるかのような扱いが相次いで見られるようになっている。

 実際、今回の「事件」はLINEユーザーがLINEに送った「通報」の内容やそれに付随する情報が、暗号化されないまま中国国内に置かれたサーバーに保存され、LINEの関連会社の中国法人で働く少なくとも4人のエンジニアがこれを閲覧していたことがLINEの調査によって明らかになっている。少しややこしい話になるが、要するにここで言う、中国国内のサーバーに暗号化されないまま保存され閲覧可能な状態になっていた情報というのは、日常的にわれわれがLINEで友人などとやりとりしているメッセージや企業や自治体などが顧客や住民サービスのためにやりとりしているトーク情報とは別物の、ユーザーがLINEに送ってきた「通報」や「クレーム」の類いに限定されていたとみられる。どうやら事の真相は、LINEのアプリの開発は、実際はLINEの中国にある関連会社が行っており、そのためそこで働くエンジニアたちに通報やクレーム内容を知らせる必要があったということのようだ。

 とはいえ、LINEユーザーにしてみれば、自分たちが利用するサービスのそのほんの一部とはいえ、情報が中国国内のサーバーに保存され、しかも第三者が見られるようになっていたという話は寝耳に水の話だったはずだ。また中国国内の企業は国家情報法に基づき、政府から情報の提供を求められればこれに応じる義務を負っているため、個人情報が中国国内のサーバーに置かれれば、それがただちに中国政府の手に渡る可能性もあることになる。こう聞けば内心穏やかではいられないと感じるユーザーが多くいるのも当然のことだろう。

 今回の問題発覚を受けて、LINEは全てのトークデータの保管を国内のサーバーに移すことを約束しているので、とりあえずこの先、われわれLINEユーザーの情報が、例えその一部であっても中国国内に保存されることはなくなると考えてよさそうだ。また、LINEは通常のメッセージのやりとりは暗号化された上、サーバーには残していないということなので、アカウントが乗っ取られたりしない限り、LINE上のメッセージのやりとりが第三者に閲覧されるリスクは非常に低い。

 しかし、IT問題に詳しいフリーライターの西田宗千佳氏は、今回のLINEの中国サーバー問題は、大きく分けて2つのより重大な問題を露呈していると指摘する。それはまず、今回朝日新聞が3月17日にこの問題をスクープした時点で、LINEの少なくとも経営陣は、どの情報がどこのサーバーで保存され管理されているかを把握できていなかったことだ。つまり、これだけ膨大な個人情報を預かる日本最大のメッセージアプリのサービスプロバイダーのガバナンス(企業統治)が、実は驚くほど杜撰だったことが露呈してしまったことになる。

 また、西田氏が指摘するもう一つの問題点は、サーバーの海外管理に伴うリスクというものは、LINEに限らずどんなサービスでも起こりうることだが、日本ではことメッセージアプリに関しては8,800万のアクティブユーザーを抱えるLINEの独壇場となっており、LINEを使わない場合に他の選択肢が事実上無いに等しい状況になっている点だ。

 今や日本では行政サービスもLINEに依存するものが多く、今回の問題が表面化した後に政府が調べた結果、LINEを業務に利用している政府機関は全23機関中18機関(78.2%)、業務数にして221業務あり、そのうち機密性を要する情報の取り扱っているものが44業務(19.9%)あったという。また地方公共団体でもLINEを業務に利用している自治体が全1,788団体中1,158団体(64.8%)あり、事業数にして3,193業務、そのうち個人情報を扱うものが719業務(22.5%)あったという。

 LINEというサービス自体が元々、ネイバー社という韓国の大手IT企業の日本法人が提供するサービスであることは知る人ぞ知る事実だ。コカ・コーラやマクドナルドがアメリカの企業だからといって何の問題もないのと同様に、会社の資本や出自がどこに国にあろうが何の問題もないが、そのサーバーが一部とはいえ中国に置かれていたり、アプリケーションが中国で開発されていることなどは、われわれユーザーはLINEから説明されていない。また、現在のLINEの日本の経営陣がサーバー周りなどの技術面を正確に把握できていなかった理由は、そもそもLINEという会社が技術面では韓国のネイバー社に主導権があるところに原因があると指摘する向きも多い。

 これらの背景は本来は注意を要する問題のはずだ。ところが日本ではLINEは、キャラクタースタンプのかわいさや東日本大震災を機に生まれたサービスなどというストーリーに押されて2011年から爆発的に普及し、今や電話に次ぐ、いや場合によっては電話に取って代わると言っても過言ではない日本国民の基本的な情報インフラともいうべきお化けサービスに膨れ上がってしまっている。

 上記のような懸念はあるものの、西田氏は今回、中国サーバー問題が表面化したことで、LINEはこれまでガバナンスが欠如していた部分を再認識し、そこを立て直してくるはずなので、むしろこれでLINEが他のアプリよりも、より安全なサービスになる可能性もあるとの楽観的な見方を示す。また、LINEはこの3月にヤフーを運営するZホールティングスとの経営統合を発表しているが、今回の事件によってLINEの「日本化」、つまり韓国への依存度を低下させ、旧ヤフー陣営によるより主体性な運営が進む可能性が高いのではないかと西田氏は予想する。

 また、これはLINEに限らず、ネットを利用する限り、自分たちの情報が何らかの形で外から見られるリスクとは常に隣り合わせであることは、この際再認識しておく必要があるだろう。その意味では、アップル社がiOS14.5から導入した、アプリケーションのプロバイダーに対してトラッキング(自身の閲覧履歴の参照)の可否をユーザーに選択させるサービスを導入したことの意味は大きい。

 これは、これまでの基準では、スマホのアプリ(ソフト)の提供者はユーザーがあえてその機能をディスエイブル(不可)に設定しない限り、そのソフトのユーザーのネットの閲覧履歴を自由に参照することが可能になっていたのに対し、アプリのインストール時に必ずユーザーの意向を確認しなければならないというもの。そこでユーザーが「NO」を選べば、アプリの提供者はユーザーのトラッキングデータ(閲覧履歴)を参照することができなくなり、そのデータを広告主に売ることができなくなる。Facebookなど多くのアプリの提供者、とりわけ無料のアプリを提供する事業社にとって、トラッキングデータは主要な収入源だったが、その一方で本人の承諾なしに個人のプライベートな行動履歴を売買して利益を得る行為に対しては、倫理的な観点から根強い批判があった。

 このたびアップルがiOS14.5からこれを導入したのを受け、スマホのもう一つの雄であるアンドロイドを提供するgoogleも、アプリをダウンロードするgoogle playにおいて同様のサービスを開始する予定を発表している。(期日は未定)PCにおいてもブラウザーの「サードパーティ・クッキー」がオンになっていれば同様のトラッキングが可能だが、今回アップルがiOSでこれを選択制にしたことで、本人が知らない間に自身の行動履歴情報が売買されていたことを多くの人が知り、PCでも「サードパーティ・クッキー」をオフにする動きが顕著に見られるようになっているという。

 今回のLINE問題はLINEという企業のガバナンスの問題としては重要だが、それはLINEが改善した上で社会に説明責任を果たせばいいこと。しかし、ネット上の情報漏洩という意味においては、これは特にLINEに限った問題ではなく、ネットを利用する際に必ずついて回るリスクの一環と考えるべきものだろう。いたずらにLINEを危険視しても何の問題解決にもつながらない。むしろ、今回の事件を奇貨として、自分たちが無自覚なまま自らのプライバシー情報の提供を許可している状態にあることを改めて再確認した上で、コンビニエンスとリスクは常に表裏一体の関係にあることを今一度認識する良い機会にすべきではないだろうか。

 今回のLINE問題の中身とそこからわれわれが受け止めるべき教訓、アップルのトラッキング選択制度の持つ意味などについて、西田氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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