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原理原則なき「デジタル改革関連法」では個人情報は護れない

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1050回)

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公開日 2021年05月22日

ゲスト

NPO法人情報公開クリアリングハウス理事長

1972年東京都生まれ。96年横浜市立大卒。同年「情報公開法を求める市民運動」事務局スタッフ。99年NPO法人情報公開クリアリングハウスを設立し室長に就任。理事を経て2011年より現職。共著に『社会の「見える化」をどう実現するか―福島第一原発事故を教訓に』、『情報公開と憲法 知る権利はどう使う』など。

著書

概要

 世界には社会のデジタル化を巡り大きく分けて2つの潮流がある。一つはアメリカに見られるような、極力規制を排することで社会がデジタル化の恩恵を最大限享受できるようにするとともに、市場原理に則りイノーベーションの推進を積極的に図ろうというもの。実際にその政策の甲斐あって、少なくともここまでは世界の主要なデジタル企業はほとんどアメリカの企業が占めている。そしてもう一つがEUに見られる、GDPR(EU一般デジタル規則)のような厳しい規制を設けることで、多少利便性を犠牲にしても個人情報の保護を徹底しようという考え方だ。

 さて、日本が今国会で可決したデジタル改革関連法は日本をどちらの方向に向かわせることを意図したものだったのだろうか。

 デジタル庁の創設などが盛り込まれた「デジタル改革関連法」が5月12日、成立した。これは63本のデジタル関連の法律を一括りにしたもので、その中には個人情報保護法の抜本的改正など国民生活に密接に関係する法制度の変更も含まれるが、そのわりには法案の中身に対する世間の関心は必ずしも高いものとは言えなかった。冒頭で指摘したような今後の日本社会の方向性を決定づける可能性がある重要な法律であるにもかかわらずだ。

 今回の法案の立法趣旨について政府は、一連のコロナ対応で日本のデジタル化の遅れが顕著になったことなどを挙げているが、改正の中身を具に見ていくと今回の法改正を一言で表現すれば、個人情報保護法の規制緩和以外の何物でもない。これまで自治体ごとに定められていた個人情報保護条例を、自治体よりも規律が緩い国の法律に一本化することによって個人情報保護の縛りを緩め、デジタルデータの行政や民間の利用を拡げようというものだ。

 今回の法改正で特に大きな問題となるのが、これまで日本が維持してきた個人情報保護を巡るいくつかの基本原則が撤廃されてしまったことだ。これまで日本では個人情報は目的を明示した上で本人から許可を得て直接収集しなければならないという原則が貫かれ、それが各地方公共団体の個人情報保護条例でも尊重されてきた。しかし、今回の法改正ではこの「本人同意」の原則が撤廃され、個人情報を本人の同意を得ずに第三者から収集することが可能になる。これによって行政や民間によるデジタル情報の利用はより容易になるが、本人の知らないところで個人情報が収集されれば、自分のプライバシーが知らない間に侵害されるリスクが増すほか、自己情報を閲覧したりコントロールする権利が大幅に制限されることになる。

 また今回の法改正により、これまで自治体の条例では原則禁止されていた個人の思想信条や出自、病歴などに関する「センシティブ情報」や「要配慮個人情報」の収集も可能になる。

 その他、「データ活用促進」の名の下に、自治体は保有する個人情報を匿名加工した上で、他の行政機関や民間に利活用させるための提案を募集することが義務づけられるなど、今回の法改正によって個人情報の利用が大幅に自由化されるが、その一方で、そうした活動に対する監視機能の強化は明らかに不十分だ。

 今回、軒並み規制緩和が謳われる中、監視強化や歯止め策としては「個人情報保護委員会の機能強化」 くらいしか見当たらない。個人情報保護委員会は内閣総理大臣の所轄に属する行政委員会で、8人の有識者からなるが、「指導」「勧告」などはできるが「命令」や「立ち入り検査」などの強い権限は有さない。今回の法改正ではこの個人情報保護委員会の機能強化が謳われているが、その具体的な中身はまだ何も決まっていない。少なくとも現在の委員会の体制のままで、今回大幅に自由化された個人情報の利活用を監視することは難しいと言わざるをえない。

 自治体の個人情報保護審査会の委員などを務め個人情報保護法制に詳しいNPO法人情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長は、個人情報は本来は収集の目的を明確化した上で、本人の承諾を得て収集されるべきものであり、その経済的な利用はあくまで副次的なものに過ぎない。今回、経済的なメリットや利便性を理由に本人同意を不要にしたり、これまで禁止されてきたセンシティブ情報の収集を可能にするなどの改正が行われたことは本末転倒の謗りを免れないと、これを厳しく批判する。

 元々日本の個人情報保護法制では、GDPRという厳しい基準を設けているEUのそれと比較すると遙かに緩かったが、それでも基本的に市場原理を優先するアメリカよりも厳しい基準が適用されていた。しかし、今回の法改正によって、日本の個人情報保護はほぼアメリカと同じ水準まで規制が緩和されることになる。その一方でアメリカでは、今回アップルコンピューターがiOS14.5から、ユーザーのトラッキングの提供を選択制にするなど、行き過ぎた個人情報の利活用を抑制する動きが見られるようになっている。エドワード・スノーデン氏が告発したNSAのデジタル情報の収集や、2016年の大統領選挙でケンブリッジ・アナリティカによるフェイスブックからの違法なトラッキングデータの収集が選挙結果に大きな影響を与えていたことが明らかになるなど、アメリカは市場原理に則っているがゆえに行き過ぎた個人情報の利用に対するチェック機能が働く性格も兼ね備えている。しかし、日本は今回の法改正で法的制限がアメリカ並みに弱くなる一方で、そこまで市場の自由な競争を認める文化は根付いていない。その日本でアメリカ流の個人情報保護法制を指向することのリスクは、十分に検証される必要があるだろうか。

 今回の可決したデジタル改革法は2年以内に施行されることになっている。法案は可決はしたが、まだ再考の余地はある。

 今週は三木氏と、先日成立したデジタル改革法の中身を確認した上で、その問題点を検証し、日本がどのようなデジタル社会を指向しているのかを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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