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2022年02月05日公開

メタバースはリアルな世界をどう変えるのか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1087回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2022年05月05日23時59分
(終了しました)

ゲスト

中央大学国際情報学部教授

1972年東京都生まれ。97年中央大学総合政策学部卒業。2004年同大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。専門は情報セキュリティ、ネットワーク。1999年富士総合研究所入社。2002年富士総合研究所を退職。関東学院大学経済学部講師、中央大学総合政策学部准教授を経て19年より現職。著書に『メタバースとは何か ネット上の「もう一つの世界」』、『思考からの逃走』、『ハッカーの手口 ソーシャルからサイバー攻撃まで』など。

著書

概要

 ここに来て、にわかに「メタバース」に注目が集まっている。

 昨年10月、SNSフェイスブックが、メタバースを事業の柱に据える意味を込めて、社名を「メタ」に変更し、向こう10年間、毎年1兆円超をメタバース事業に投入する方針を発表したのに続き、今年に入ってからはマイクロソフト、ソニーなどのテックジャイアントが相次いで巨額を投じ、著名なゲームメーカーを買収したことで、メタバースが次のITフロンティアの主戦場となることが明確になってきた。実際、最近の株式市場はメタバースの将来の収益性の評価をめぐり、「メタバース関連株」の乱高下で荒れ気味だ。

 日本全体では「メタバース」という言葉の認知度はまだ必ずしも高くはないが、ある調査によると、今、50%を越える小学生が「一番遊んでいる」ゲームとして挙げるトップ3の「フォートナイト」、「マインクラフト」、「あつまれ どうぶつの森」は、いずれも広い意味で「メタバース内で遊ぶゲーム」だ。

 今になって企業がこぞって「ZOOMに代わるコミュニケーションツールとしてメタバースを」などと言い出してみたり、金融界もブロックチェーンNFT(non-fungible token=非代替性トークン)などを使った新たなビジネスを模索する動きが盛んだが、こうした大人たちのはしゃぎぶりをよそに、子供たちはもう何年も前から日常的にメタバースを利用しているというのが実情のようだ。

 しかし、それにしてもなぜメタバースは、子供やテックジャイアントをそうまで夢中にさせるのだろうか。

 それはメタバースが現実とは異なる、自分にとって居心地のいい仮想空間を提供してくれるからだ。リアルの世界における自分の属性に囚われることなく、自分にとって都合のいい仮想空間を自由に選ぶことができれば、そこが世界中の人々と協力しながら宇宙からの侵略者と戦う宇宙戦争の最前線であっても、また単に動物と触れ合うだけの癒しの場であっても、とにかくとても居心地がいい場所になるのは当然だ。そこには炎上やハラスメントはない。容姿や学歴などで劣等感を覚えながら生きる必要もない。要するにメタバースはリアルな世界のように生きづらくないのだ。だから誰もが長居をしたくなる。多くの人が長くいる場所であれば、広告と接触させるチャンスも大きくなるし、その中で自分のアバターが着る洋服やそこで履くスニーカーなどを売るビジネスチャンスも生まれる。仮想空間では自分の本来の性別にも体形にも人種にもとらわれないし、場合によっては自分が犬や鳥になることだってできる。だからもちろん、どんなファッションだって思いのままだ。

 元々メタバースという言葉は、超越を意味する「meta」と宇宙を意味する「universe」を合わせた造語だが、それを一言で説明すると「インターネット上の仮想共有空間」ということになる。コンピュータの画像処理能力の向上や太いネットワークの整備などによって、VR(バーチャルリアリティ=仮想現実)技術が急激に進歩した結果、VRによって現実とほとんど変わらない高精度、高密度な仮想空間を創造することが可能になった。高画質の液晶大画面のスクリーンを見ているだけでも現実に匹敵するレベルの臨場感を経験できるが、さらにちょっとしたゴーグルを装着すれば、それはリアルな視聴覚体験とほとんど変わらないものとなる。いや、リアルをはるかに超越した体験をもたらしてくれるようになっているのだ。

 人間である以上、当面は食事や排せつはバーチャルで済ますわけにはいかないが、それ以外の行為は、例えばお金を稼ぐ行為すらメタバース上でできるようになれば、1日のうちのほとんどの時間をメタバースの中で快適に過ごし、どうしてもリアルでやらなければならないものをやる時だけ、メタバースからリアルに一時的に降りてくる、なんていう生き方もあり得てしまう。実際に今、メタバース上でお金を稼ぐ方法がいろいろ試されている状態だ。

 仮に、本当にそのようなことが可能になった時、今の時代にそんな生き方は人間としてどうなのか、などという疑問を呈することができる人がどれほどいるだろうか。もしそのような人がいるとすれば、それはおそらくその人が、リアルな世界でまだある程度の充足感を得ているからだろう。今、ネット上ではメタバースをめぐりそんな議論が大真面目に交わされているのだ。それほど多くの人が今の世の中に生きづらさを感じ、閉塞感や不全感を抱えていることの裏返しと見ることもできるだろう。

 しかし、問題は今後世界中の多くの人がメタバースに参加するようになると、メタバースの中に場合によってはリアルな世界よりももっと大きな格差や差別や生きづらさの原因となる要素が生まれないとも限らないことだ。メタバースの中では自分だけの孤立した世界や、自作した自分にとって都合のいいキャラクターしか登場しない世界を自ら構築し、その中に閉じこもって生きることも可能だが、それではわざわざネットワークにつながっているメタバース環境にいる意味がない。そもそもリアルの世界で家族や友達がいなくて寂しいからメタバースに入ってきている人にとっては、メタバースの中でも孤立しているのでは、何のためにメタバースを利用しているのかもわからなくなってしまう。

 『メタバースとは何か ネット上の「もう一つの世界」』などの著書があり、メタバースに詳しい中央大学国際情報学部の岡嶋裕史教授は、「メタバースであればリアルで挫折した機会や資源の平等の再分配が可能になる」という見方は楽観的すぎるだろうと指摘する。リアルな世界では本来、最大多数の最大幸福を実現する手段であるはずの民主主義機能不全が多くの人にとっての生きづらさの原因となっているが、結局、大勢の人がメタバースに入ってくれば、そこにも同じような問題は発生する。誰にとっても都合のいい世界など存在し得ないからだ。しかも、メタバースのシステム構築やサーバー管理には莫大な資本を要するため、一般利用者にはその仕組みは知覚もできなければコントロールすることもできない。結局、自分たちが認識できないところで一握りの事業者に利潤が流れるようなアーキテクチャーが作られ、特定の勢力が利益を独占するような仕組みが作られてしまう可能性が高い。

 しかし、さらに深刻なのは、それがわかっていても、「今のリアルな政治・経済・社会体制の下で理不尽な支配を受けるくらいなら、テックジャイアントに支配される方がまだまし」だと考え、自覚的にメタバースに身をゆだねる人が決して少なくないということだ。

 今週は岡嶋氏とともに、メタバースとは何か、今なぜメタバースなのかなど、メタバースの基本を聞いた上で、メタバースの普及がリアルの世界に与える影響などについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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