TPPの背後にある新自由主義とどう向き合うか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第682回)

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公開日 2014年05月10日

ゲスト

横浜国立大学名誉教授

1947年京都府生まれ。70年福島大学経済学部卒業。76年東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。マサチューセッツ大学客員研究員、横浜国立大学助教授、同大学教授を経て、2013年定年退職。著書に『日本の構造「改革」とTPP - ワシ ントン発の経済「改革」』、『TPP アメリカ発、第3の構造改革』、『世界経済と企業行動』など。

著書

概要

 アメリカは一体日本をどうしたいのだろうか。

 TPPの日米協議が難航し、久々の日米貿易摩擦らしきものが表面化している。日米間の貿易摩擦が激化した80年~90年代のそれと比べるべくもないほど静かなものだが、今回は交渉の内容が基本的に非公開とされ外野は黙って静かに状況を見守るしかない中で、近年になく日本の経済や社会制度にまで踏み込んだ交渉が行われているようだ。

 マスメディアは日本が聖域とした5品目の取り扱いや関税の税率など個別分野にばかり注目する傾向があるが、そうした報道からは過去の日米構造協議や日米包括協議などの日米交渉において、日本の社会や市民生活が大きな質的変化を強いられたことへの認識は微塵も感じられない。結果的に、仮にTPPが目指す関税の原則全面撤廃が行われた時、日本の社会がどう変質するかについては、まだ十分に検証されたとは言えないのではないか。

 TPPとは環太平洋地域諸国による自由貿易体制の構築を目指す国際的な枠組みのことであり、自由貿易を標榜している以上、関税や非関税障壁の撤廃を原則とした統一の自由化ルールを前提としている。とはいえ、日米両国のGDPがTPP交渉に参加する全12カ国のGDPの8割を占めていることから、TPPは実質的に日米自由貿易協定の色彩が濃い。

 戦後の日本の復興そして経済成長は、特に貿易面で製品の輸出に負うところが多かった。しかし、1970年代以降、日本が経済大国に成長する間、アメリカ経済は苦境に陥り、日本の経常黒字、とりわけ対米貿易赤字が日米間の大きな懸案となった。1981年にアメリカでレーガン政権が誕生し、1930年代のニューディール政策から続いてきたケインジアン的な再配分政策から、レーガノミクスと呼ばれる新自由主義的な政策への転換を図ると、貿易交渉におけるアメリカの対日要求も次第に日本に対して新自由主義政策への転換を求めるようなものに変質していった。日本でアメリカ製の商品が売れないのは、単に関税のような目に見える障壁だけではなく、日本独特の商習慣や消費習慣、ひいては独特のライフスタイルといった非関税障壁にその原因があり、貿易不均衡を解消するためには日本はそれを変えなければならないという主張だった。しかもアメリカは、そうした日本の伝統的な商習慣や社会制度が、日本の消費者利益に適っていないという論理を展開した。

 アメリカの通商政策や国際貿易問題に詳しい横浜国立大学の萩原伸次郎名誉教授は、「TPPは第3の構造改革」になると指摘する。TPPは単に関税などの貿易障壁の撤廃を求めるだけにとどまらず、自由貿易に代表される新自由主義的な価値観やそれを前提とした経済・社会制度の変質まで迫るものになる可能性が高いからだ。橋本政権の「行財政改革」と「日本版金融ビッグバン」を第一、小泉構造改革を第二の構造改革とした時、TPPが三番目の、そして日本の構造改革の総仕上げの意味を持つものになる。

 経済成長を遂げ、貿易黒字を貯め込むようになった日本は、1980年代以降、中曽根政権の土光臨調や前川リポートなどを通じて構造改革を進めてきた。1980年代以降の日本の大きな制度改革の背後には、決まってアメリカの要請があった。1990年代に入ると、アメリカから毎年年次改革要望書なる書面が届くようになり、日本の改革はほぼその要望書に沿って行われてきたといっても過言ではない。

 こうして見ていくと、70年から80年代に日本の経済的台頭を許したアメリカは、日本の経常黒字や消費者利益といった正義をかざしながら、自国利益を追求するために厳しく、そして着実に日本を新自由主義陣営に引き込み、アメリカ製の商品が買われやすい状況を作ろうと努めてきた。しかし、にもかかわらず、アメリカ商品は依然として日本では必ずしも売れているとは言えない。無理矢理大店法を撤廃させ、日本中にシャッター通りを作っておきながら、アメリカの大型店舗はほとんど日本に入ってきていない。むしろ、イオンやイトーヨーカドーなどが郊外に大店舗を出すことで、もっぱら漁夫の利を得ている状態に見える。

 しかし、アメリカが自国の利益を追求しようとするのは当たり前のことだ。それに日本がどう対応してきたかに問題がある。やや手遅れの感もあるが、日本がアメリカの要求を呑むなかで自国の「社会的共通資本」を自ら壊してきたことを今改めて再認識し、譲るべきものと守るべきものを峻別できるようにならなければ、やがて日本は日本でなくなってしまいかねない。

 アメリカは日本をどうしたいのか。われわれはアメリカの要求の背後にある新自由主義や自由貿易とどう向き合うべきなのか。それに従っていれば日本は幸せになるのか。日米繊維交渉からTPP問題にいたる日米貿易交渉の歴史を振り返りながら、ゲストの萩原伸次郎氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が日本が得たものと失ったものを議論した。

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