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2019年4月27日
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今だからこそ象徴天皇制について議論しておかなければならないこと

10分16秒
原武史氏(放送大学教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第942回(2019年4月27日)

 メディア的な言い方をすると、これが「平成最後のマル激」となる。

 巷では平成を振り返ったり、新しい御代を展望する番組や記事で溢れている。しかし、あまり見かけないのが、象徴天皇制の現状についての議論だ。

 このタイミングで譲位となったことの是非や、30年の平成の世に日本の象徴天皇制がどう定義づけられどう変化したか、皇位継承はこのままでいいのかなど、象徴天皇制をめぐる様々な議論が今こそ活発に交わされるべき時だと思うが、なぜかそうはなっていない。こと天皇の話となると決まってこうなってしまうのが、日本人の国民性なのだろうか。

 政治思想史が専門で天皇制に詳しい放送大学の原武史教授は、今上天皇が2016年8月8日のいわゆる「おことばビデオ」で退位の意向を表明した時、陛下から日本国民に向けて多くの球が投げられたとわれわれは考えるべきだと言う。われわれは一人ひとりがその球を受け止めた上で、その内容をしっかりと吟味し、議論し、何らかの形でその対応を決める必要があったが、政府の有識者会議を含め、そこでも日本中が思考停止に陥ってしまった。

 「陛下がそう言われているのだから、その通りにすべきだ」というのでは、象徴天皇制はおろか、戦前と何ら変わらないではないかと、原氏は指摘する。

 実は今上天皇はそのおことばビデオの中で、「象徴としてのお務め」を自ら定義している。象徴天皇制の日本にあって、憲法に定められた「象徴」の意味するところが具体的に言葉になったのは、恐らくこれが初めてのことだろう。

 陛下は象徴の役割を、「国民の安寧と幸せを祈ること」と「時として人々の傍らに立ち、その声に耳を傾け、思いに寄り添うこと」の2つだと明言した。前者は宮中祭祀を、後者は日本中を回る行幸や行幸啓を意味していると考えられている。そして、その2つが満足に果たせなくなる恐れがあるために、退位したいと申し出た形になっている。

 もっとも天皇本来の役割は憲法6条、7条に定められた「国会の召集」「衆議院の解散」「栄典の授与」「外国大使・公使の接受」など10項目の「国事行為」に限られている。今上天皇・皇后が重視してきた、大きな災害時の被災者の慰問などには、法的な根拠はない。これこそが今上天皇が自ら定義し、そしてその実践を通じて形にしてきたまったく新しい象徴天皇像だ。そして今、陛下自身が、ご高齢や健康問題のために、自ら定義した象徴としての役目を果たせなくなる怖れがあるとの理由から、生前退位、そして譲位の意向を表明し、政府は一応は有識者会議の決定という形を取りながらも、事実上そのご意向をそのまま受け入れた形となっている。

 今上天皇は自らの存在を政治利用されることをことさらに嫌っていたと考えられている。天皇皇后両陛下が地方を行幸啓されるとき、日没後に両陛下の滞在先の宿の前に大勢の市民が提灯を持って集まり万歳を三唱する「提灯奉迎」なる儀式が、陛下の行く先々で行われていたことは、あまり広く知られていないようだが、両陛下はやや宗教色も帯びた印象を与えるその儀式を避けるために、意識的に日帰りの訪問を増やしていたのではないかと原氏は指摘する。また、陛下の訪問先の近くに自衛隊の駐屯地があると、大勢の自衛隊員が沿道沿いに直立不動で整列して陛下を迎える「自衛隊の堵列」なども、当たり前に行われるようになるなど、右派による天皇の権威の強化が、陛下の意思とは無関係に進められてきたことも事実だ。

 これに対し、今上天皇は大地震や台風被害が発生するたびに被災地を積極的に回り、被災者や避難中の人々一人ひとりの前に正座をして、彼らと同じ目線で語り合うことで、高いところから民を眺める権威としての天皇像ではなく、国民と一対一の関係を築くことで、自ら定義した象徴としての務めを果たそうとしてきたと原氏は言う。

 30年にわたり今上陛下が果たしてきた、自ら定義した象徴としての役割は、恐らく多くの国民の支持するところだろう。しかし、陛下がご高齢を理由に生前退位を申し出なければならないほど多忙に動き回らなければならない状態を作ってしまったのは、いったい誰だったのだろうか。国民はそれを陛下まかせにしておいて、単にありがたくその恩恵を受けているだけでよかったのだろうか。

 更に言うならば、世襲が憲法によって定められている天皇、ならびに皇族には、われわれ国民が享受している職業選択の自由や言論の自由といった、基本的な人権すらも保障されていない。にもかかわらず、政治利用されることを自ら抑止し、象徴としての自らの役割を定義するために、苛酷と言っても過言ではない公務のスケジュールをこなさなければならないような立場に置くことに、問題はないのだろうか。

 民主主義・主権在民の日本にあって、何が望ましい天皇制かを最終的に決めるのは言うまでもなく国民だ。国民にはその権利があると同時に、その義務も負っている。われわれがその議論をタブー視したり、それを避けてきたことで、結果的に天皇を始めとする皇族に多大な負荷がかかっていることも今回明らかになった。また、相変わらず皇室を政治利用しようとする勢力が根強く残っていることも直視する必要があるだろう。

 いずれにしても、5月1日から新天皇が即位し、新しい時代に入る。新しい御代を祝う一方で、平成が残した様々な宿題を今、議論せずに、いったいいつ議論するというのだろう。一番足りないのは、われわれ一人ひとりがもう少しこの問題を自分の問題として受け止め、考え、そして議論することではないか。平成の終わりに、象徴天皇制について様々な問題提起をしてきた原氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

 
原 武史(はら たけし)
放送大学教授
1962年東京都生まれ。86年早稲田大学政治経済学部卒業。92年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程中退。87年日本経済新聞社入社。東京社会部記者(宮内庁担当)を経て88年退職。東京大学社会科学研究所助手、明治学院大学国際学部教授などを経て2016年より現職。著書に『平成の終焉 退位と天皇・皇后』、『天皇は宗教とどう向き合ってきたか』など。

 

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