2016年11月26日
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何とかして自衛隊に銃を撃たせたい人たちがいるようだ

伊勢崎賢治氏(東京外国語大学大学院教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第816回(2016年11月26日)

 自衛隊員たちは一体何のためにこれだけのリスクを負わされているのだろう。

 政府は11月15日、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に参加する陸上自衛隊に新たに「駆け付け警護」任務を加えることを閣議決定し、20日には部隊の先発隊が、青森空港を出発した。

 内戦など政情が不安定な国での国連平和維持軍(PKF)に参加した日本の自衛隊が、派遣先の近くで国連職員やNGOのスタッフが武装勢力によって危険な状態に陥った時、必要となる武力を行使した上でこれを救出するための権限を与えるのが、いわゆる「駆け付け警護」と呼ばれるものだ。

 たまたま困った民間人の近くに武装した自衛隊がいるのだから、助けるのは当然だと政府は説明しているが、紛争国の実情に詳しい東京外語大の伊勢崎賢治教授は、それは現在の国連PKOの実態をあまりにも知らない人の議論だと指摘する。

 かつて国連PKOはその名の通り、内戦や政情不安に喘ぐ国々が平和を維持するための手助けをすることだった。しかし、現在の国連PKOは住民の保護が主な任務となっている。民族間対立に発展した1994年のルワンダ内戦で、国連から平和維持軍(PKF)が派遣されていたにもかかわらず、武力を行使する権限を与えられていなかったために何もできないまま、80万からの市民が虐殺されるという悲劇が起きた。国連PKFの部隊は自分たちが撤退すれば80万ものツチ族の市民が対立するフツ族の民兵らによって皆殺しにされることを知りながら、これを見殺しにして撤退した。その時のPKFには武力行使の権限が与えられていなかったため、撤退せざるを得なかったのだ。

 その「見殺し行為」がその後、国際社会から強い批判を浴び、以来、国連PKOは武力を行使してでも住民を保護することが優先的なミッションと位置づけられるようになったと伊勢崎氏は言う。少なくとも今のPKOが負っている任務は、紛争地域には行かないことなどを定めた日本政府のPKO参加5原則の時代とは、大きく様変わりし、住民保護のためであれば武力を行使して紛争の当事者となることも辞さないという立場を取るようになった。

 そもそも憲法上の制約から、国内的には軍隊とは認められていない自衛隊が国連PKOに参加すること自体に、もともと無理があったが、国連PKOのミッションが停戦や平和維持から住民保護にシフトした今、その矛盾はこれまでになく大きなものになっている。

 国際貢献は重要だが、法的に軍隊として認められていない以上、武力行使には厳しい制約が課されることになる。結果的に日本のPKOはできる限り安全で治安の良い地域に施設部隊を送り、道路や橋を建設したり井戸を掘ったりする兵站に専念するしかない。それがこれまでの日本の国連PKOの実態だった。

 その間、自衛隊自身も武器の使用に対して強い規律を守ってきたために、これまで日本の自衛隊は武力衝突に巻き込まれずに済んできた。巻き込まれるのが怖いのではなく、巻き込まれたときに自衛隊の隊員たちを守るための法的な枠組みが日本には用意されていないのだ。万が一武力衝突に巻き込まれた時、自衛隊が武力を使って相手を殲滅すれば、憲法に違反する行為が行われたことになり、法的にも深刻な問題が生じる。しかし、その一方で、武力の使用を躊躇することで自衛隊員が殺傷されるようなことになれば、たちまち日本国内では、「憲法の制約があったから自衛隊員は殺された。二度とこんな不幸なことが起きないよう、憲法の制約を取り除くべきだ」という議論が沸騰することになるだろう。

 結局、日本が合法的に国連PKOに参加するためには、憲法を改正して自衛隊を正規の軍隊として認定するか、国連PKF(国連平和維持軍)への参加はあきらめ、国連文民警察、国連軍事監視団など他の分野の国連PKOに参加するかの、いずれかしかない。

 しかし、歴代政権はその無理筋を、何とかして自衛隊が武力を行使しないで済む状態を死守し、自衛隊員にも犠牲が出ないような綱渡りを繰り返すことで、何とか日本のPKFへの参加を続けてきた。

 これに対して従前より伊勢崎氏は、「撃ちにくい銃」を持たされている日本の自衛隊は、何らかの武力衝突に巻き込まれた場合のリスクが大きすぎるとして、日本のPKO参加のあり方を批判してきた。

 しかし、今回「駆け付け警護」なる新たな任務を与えられたことで、「撃ちにくい銃」が、少なくともこれまでよりは「撃ちやすく」なることを伊勢崎氏は懸念していると言う。

 武装した相手に一発でも発砲すれば、当然相手も発砲してくるので、交戦状態になる。そのような事態になれば、自衛隊員に死傷者が出なかったとしても、これまでの「自衛隊は軍隊ではない」という前提が崩れることは必至だ。撃たなければ自衛隊員に死傷者が出る可能性が増し、撃てば憲法上の問題が生じる。

 伊勢崎氏は今回の「駆け付け警護」について、建前では「国際貢献」を謳いながら、本当の意図は自衛隊が元々抱えていた問題をより顕在化しやすくするという、隠れた目的があるのではないかと訝る。

 実際、防衛省は駆け付け警護の権限が付与されることで、現在南スーダンに派遣されている自衛隊の警備小隊が、国連PKFの指揮官から歩兵部隊同然に扱われることを恐れ、部隊の引き上げを検討していたことが、毎日新聞のスクープで明らかになっている。国際貢献の美名のもとで着々と進む、憲法改正へ向けた政治ゲームが生み出すリスクのすべてを抱え込むことになるのが自衛隊であることを、当事者となる防衛省は嫌というほど知っているのだ。

 国連PKOの現場を知る伊勢崎氏も、何かの事故が起きるのは時間の問題だと言う。伊勢崎氏自身は新憲法9条を提唱するなど、自身も憲法改正には前向きだが、とは言え、事故で世論が沸騰し、その勢いで憲法改正議論に突入するような、そんな憲法改正は嫌だと言う。

 新たに付与された駆け付け警護任務によって自衛隊が抱えることになるリスクと、自衛隊員の銃をより撃ちやすくしたい人たちの狙いなどを、伊勢崎氏とともにジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

 
伊勢崎 賢治いせざき けんじ
東京外国語大学大学院教授
1957年東京都生まれ。80年早稲田大学理工学部卒業。84年インド国立ボンベイ大学大学院社会科学研究科博士前期課程修了(後期中退)。86年早稲田大学大学院理工学研究科都市計画専攻修了。東チモール暫定統治機構県知事、国連シエラレオネ派遣団武装解除統括部長などを経て、日本政府特別顧問としてアフガニスタンの武装解除を指揮。立教大学教授などを経て2009年より現職。著書に『本当の戦争の話をしよう 世界の「対立」を仕切る』、『新国防論 9条もアメリカも日本を守れない』など。 816_isezaki

 

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