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2026年08月28日公開

公開されない戦没者の記録は存在しないのと同じだ

ディスクロージャー ディスクロージャー (第47回)

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概要

 戦後81年が経った。しかし、まだ家族のもとに帰れていない戦争犠牲者が大勢いる。

 名前は分かっている。遺骨も残っている。それでも遺族が見つからない。逆に、遺族の側は何十年も探し続けているのに、どこに記録があるのかが分からない。そういう人たちが、今もこの国には数え切れないほど存在するのだ。

 なぜ、名前が分かっているのに見つからないのか。理由の一つは驚くほど単純だ。記録が公開されていないからだ。

 第47回「ディスクロージャー&ディスカバリー」では、広島の原爆犠牲者、シベリア抑留中の死亡者、東京大空襲の犠牲者、そして浮島丸事件の犠牲者という4つの事例を手がかりに、戦没者・戦災犠牲者の記録をめぐる情報公開の実態と、そこに横たわる制度上の壁を議論した。いずれも大規模な犠牲を伴った出来事だが、残された記録がどこにあり、どう管理されているかによって、遺族が情報にたどり着ける可能性はまったく違ってくる。

 象徴的なのが広島の事例だ。広島市の原爆供養塔には、身元は判明しているのに遺族が分からない遺骨が多数納められている。市はその氏名などを名簿にして公開し、遺族からの情報提供を呼びかけてきた。この公開名簿と、国立広島原爆死没者追悼平和祈念館に登録された情報を照合したことで、2021年には梶山ハルさんの遺骨が遺族のもとに返還されている。また、梶山ハルさんの孫にあたる梶山初枝さんのケースでは、記録上の名前が食い違っていたために特定が難航したが、遺骨に残っていた髪の毛からDNA鑑定を行い、遺族との関係が確認された。

 ここで起きたことの意味は小さくない。梶山さんの遺族は、行政が調査したから見つかったのではない。情報を社会に開いた結果、別々の場所に眠っていた記録が突き合わされ、思いもよらない手がかりが浮かび上がったのだ。しかも80年という時間の経過の中で、当時を知る人そのものが急速に失われつつある。記録を公開し、より多くの人が探せる状態にしておくことが、遺族や関係者にたどり着く最後の機会になる可能性がある。

 ところが、現在の情報公開制度には大きな壁がある。行政機関が保有する文書は「現用文書」と呼ばれる公文書として扱われるため、個人を識別できる情報は原則として不開示の対象になってしまうのだ。

 歴史的な記録については「時の経過」を考慮する仕組みも用意されている。しかし氏名のような情報は、時間が経てば識別性が薄れるという性質のものではない。80年が過ぎた今も、個人情報保護を理由に記録が閉ざされたままになる事態が起きるのはそのためだ。

 シベリア抑留中の死亡者をめぐっても、同じ構図が見える。当初ロシア側から提供された名簿はカタカナ表記で、出生年しか分からず、個人を特定するには足りなかった。その後、旧軍の記録や戸籍と照合することで特定が進むと同時に、民間の研究者が集めた情報を公開したところ、遺族や関係者から新たな情報が寄せられ、名簿そのものが更新されていった。ここでも記録を開くことが、記録の精度を上げ、遺族の特定につながっている。

 戦没者の身元特定という特殊な問題に一般的な情報公開法だけで対応することには限界がある。戦没者や戦災犠牲者に関する記録は、通常の行政情報とは性質が異なる。時間が経てば経つほど、公開しないことによる社会的な損失のほうが大きくなっていくからだ。特別なルールを設けるか、公益性を踏まえた政策判断として公開に踏み込むこと、そして早期にアーカイブへ移管し、検索しやすい形でデジタル化することが、遺族を特定するためには必要だ。

 情報公開は、行政を監視するためだけの制度ではない。過去の記録を社会に開くことは、失われかけた記憶をつなぎ直し、人と歴史をもう一度見つけ出すための手段にもなる。戦後81年という時間軸の中で、わずかに残された手がかりをどう公開し、誰もが探せるようにしていくのか。戦没者の記録をめぐるこの問題は、情報公開制度がそもそも何のために存在するのかを、私たちに改めて問い直している。

 今回の「ディスクロージャー&ディスカバリー」では、戦没者・戦災犠牲者の記録をめぐる情報公開の現状と制度上の課題について、情報公開クリアリングハウス理事長の三木由希子とジャーナリストの神保哲生が議論した。

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