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2026年10月24日公開

簗前農水相発言が露呈させた自民党の「箇所付け」政治は生きていた

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1333回)

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ゲスト

宇都宮大学地域デザイン科学部准教授
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東京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。博士(法学)。専門は政策過程論、地方自治論。ハーバード大学ウェザーヘッド国際問題研究所訪問研究員、椙山女学園大学現代マネジメント学部准教授などを経て2015年より現職。著書に『公共事業改革の政治過程』、共著に『公共政策の理論と歴史』など。

著書

概要

 あの「箇所付け」ゾンビがまた永田町を闊歩し始めているのか?

 「箇所付け」。1980年代から公共事業問題を取材してきた者にとって、懐かしくもあり忌まわしい言葉でもある。日本の停滞を招いた原因として一度は一掃されたはずのその言葉が、今回、現役閣僚の口から突然蘇った。

 簗和生前農水大臣(衆院栃木3区)が今年5月、自民党支部の懇親会で、2月の衆院選で自分を支援しなかった首長の自治体の「道路予算を大幅にカットした」と語っていたことを、9月30日に週刊誌が報じた。簗氏はその理由として「首長が自民党の国会議員はいらないという行動を取った」ことと「票数」を挙げ、那須烏山市は64%減、那珂川町は54%減にしたと述べていた。簗氏は保守分裂の選挙で無所属の渡辺真太朗氏に敗れ比例復活した身でありながら、「私の簗ちゃん」と応援した高市首相によって9月に農水大臣に抜擢されていた。その後、簗氏は発言を撤回して謝罪し、国交省は「圧力は確認されなかった」としたが、それ以外にも数々のスキャンダルが指摘されたこともあり、10月14日に大臣を辞任した。

 簗氏の大臣辞任で問題発言に対する注目は収束しつつあるようだが、そうはいかない。この問題は根深い。もし簗氏の発言が事実だとすれば、これは単に国家予算の不公正な配分にとどまらず、政治家と地方自治体の癒着、政治家の国家予算の選挙利用に加え、不必要で非効率な予算の運用と財政赤字の拡大、そして現在の日本の経済的な停滞にも直結する大きな問題が水面下で広がっている可能性を示唆しているからだ。

 実際に数字は発言を裏付けている。簗氏の対立候補の渡辺氏が68%と57%の票を得た那須烏山市と那珂川町では、2026年度の道路関連交付金がそれぞれ30%減、54%減となった。簗氏を支援した那須塩原市など86%も増えている。県全体でも予算が約11%増えている中で、この2市町だけが突出して減っているのはかなり不自然だ。政策過程論や地方自治論が専門で利益誘導政治に詳しい三田妃路佳・宇都宮大学地域デザイン科学部准教授は「54%減は尋常ではない」と言う。しかも減らされたのは着工済みの継続事業だった。簗氏は国交省にこの2市町の配分額の問い合わせをしたことが明らかになっている一方で、予算の減額までは働きかけていないと主張しているが、仮に頼まれていないというのが本当だったとしても、首相が「私の簗ちゃん」とまで持ち上げる大臣の意向を官僚が忖度してもおかしくない状況を自ら作っていたと考えられると三田氏は指摘する。

 一般会計122.3兆円のうち公共事業関係費は約6.1兆円で全体の5%を占める。しかし国会が審議するのは大括りの金額までで、どの道路のどの区間にいくら配るかを決める箇所付けは予算成立後に行政内部で決まる。そこには事実上政治家のチェックも報道もない。しかし、その決定過程が政治介入や官僚の裁量によって歪められれば、結局予算の執行そのものが不公正、かつ非効率なものになってしまう。

 田中角栄の時代から「我田引鉄」(鉄道)や「我田引道」(道路)などと呼ばれ、族議員が跋扈していた中選挙区の時代には、政治家の地元への利益誘導とその引き換えに行われる自治体をあげての票集めが当たり前のように行われていた。

 ところが小選挙区制や小泉改革、民主党政権を経て公共事業費が半減したことで下火になった。だが三田氏は、それは日本が口利きができない構造を作ったからではなく、パイと選挙制度が変わった結果に過ぎなかったと言う。災害が相次ぎ、国土強靱化の名の下で公共事業が再び「必要」と言える時代になったことに加え、ここに来て公明党との連立を失った自民党議員が自力で集票を迫られる今、選挙に弱い議員ほど政治権力を使った利益誘導政治の誘惑に駆られやすい状況が生まれている可能性が否定できないのだ。

 利益誘導が可能になるのは、法律に抜け穴があるからだ。本来、政治家が利益誘導と引き換えに選挙での応援を要求する行為は、公職選挙法で禁じられている。しかし、これまで利害誘導罪が適用された例はなく、公文書管理法は「軽微なもの」を記録義務から除外していたり、2009年と12年の閣僚申し合わせは議員の発言を記録する際に本人への確認を条件としていたりと、実際には政治家の口利きが行われていても、それが後でチェックを受ける仕組みは事実上存在しないに等しい。今回の簗氏のケースは、自らその禁じ手を自慢してしまったことで表面化した、かなり異例のケースと言える。

 一方、口利きの記録・公開制度を導入した県では、政治家の働きかけは激減していることも明らかになっている。その1つ、三重県では2006年に40件あった文書によらない要望が2010年以降ほぼゼロになっている。政治家による働きかけの事実が記録され公開されることになれば、本来は違法行為である「口利き」は消えることが明らかになっているのだ。

 根はさらに深い。政治学者の斉藤淳氏は、日本では有権者が政治家への忠誠を証明する責任を負い、見返りに公共事業が来る「逆説明責任」の構造を明らかにした。小出しの飴で依存させる手法は集票には有効だが、地域はインフラ整備が遅れ、ますます補助金に依存する悪循環に陥る。その根本には自治体が財源を国に依存する構造があり、現状で利益を得る有力者が多いために変えられない。三田氏は、飴をくれる政治家ではなく苦い薬を正直に語る政治家を有権者が選べるかが問われていると語る。

 簗氏の問題は、1人の政治家の発言にとどまらない。本件が浮き彫りにした、不透明な予算配分、中央に依存する地方自治、そして目に見える利益を優先しがちな政治と有権者の関係など日本の民主主義の根深い課題を、宇都宮大学地域デザイン科学部准教授の三田妃路佳氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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