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2026年11月07日公開

民主党が圧勝してもトランプ政治は終わらないこれだけの理由

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1335回)

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ゲスト

1975年群馬県生まれ。98年慶応義塾大学法学部政治学科卒業。2007年同学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。博士(法学)。専門はアメリカ政治。在米日本大使館専門調査員、東京大学大学院総合文化研究科助教、日本国際問題研究所研究員、帝京大学准教授などを経て23年より現職。著書に『アメリカ政治とシンクタンク』、共著に『トランプのアメリカ』など。

著書

概要

 11月3日に行われたアメリカ中間選挙では、民主党が上下両院で過半数を奪還する大勝利を収めた。現在確定している議席だけでも、上院は定数100のうち54議席を、下院は定数435のうち254議席を獲得しており、過半数を大きく上回っている。下馬評で民主党の優勢が伝えられていたが、予想を大きく上回る結果となった。

 特に伝統的に共和党の牙城だったテキサス州では、上院で37歳の新人ジェームズ・タラリコ候補が、また、知事選でもメキシコ系のジーナ・ヒノホサ候補が現職を破って勝利するなど、今回の選挙のブルーウェーブを象徴する結果となった。また、激戦州のミシガン州ではエジプト系アメリカ人のアブドゥル・エル=サイード候補が初当選し、アメリカ史上初のムスリム(イスラム教徒)の上院議員となった。

 帝京大学法学部教授でアメリカ政治が専門の宮田智之氏は、タラリコがキリスト教的な価値観を前面に打ち出して勝利したことに注目する。これまで民主党の候補者が宗教色を抑えてきたために、福音派と呼ばれる人々の票が共和党に流れる傾向があったが、自身も牧師になるためのトレーニングを積んできたタラリコは、選挙運動でも聖書の「隣人を愛せよ」という言葉を掲げ、分断ではなく愛に基づく政治を訴えることで、宗教票を民主党に取り戻すことに成功しての当選だった。カンザス州でも牧師出身の民主党候補が勝利している。

 共和党は今回の大敗でこれまでのトランプ依存から抜け出せるかどうかが今後の焦点となる。トランプ大統領自身には残りの任期が2年しかなく、共和党が上下両院で過半数を失ったことなどから、トランプ個人の影響力は大きく低下する可能性が高い。もはやトランプはレームダックだと指摘する識者も多い。

 ようやくアメリカは、そして世界は、トランプという奇天烈な政治家の一挙手一投足に振り回される時代から抜け出せるのかと期待する向きもあるが、事はそう簡単にはいきそうもないと宮田氏は語る。

 確かに議会の過半数を失ったことで、予算措置を伴う施策は独断では打てなくなった。また、議会を支配下に収めた民主党が議会の国政調査権を使って今後、トランプ自身やトランプの家族に対する大統領権限の濫用や公私混同などの問題を厳しく調査し始める可能性も高い。しかし、そもそもここまでトランプが世界を翻弄してきた施策のほとんどは、議会の承認を必要としない大統領令によるものだった。中には一方的な関税のように明らかに大統領に認められた権限を超えたとみられる大統領令もあったが、それが司法の場に持ち込まれ最高裁で違法や違憲と判定されるまでは、大統領令そのものは効力を持ってしまう。議会の過半数を失ったからといって、トランプが大統領令を通じた「世界の振り回し」を止めるだろうと考える理由は今のところ見当たらない。

 さらに大きな問題がある。自分たちの優越的な地位が他の人種グループによって脅かされていると感じている白人の不満や不安、行き過ぎたポリティカルコレクトネスに対するバックラッシュなどが根底にあるトランプ現象は、実はトランプ自身が始めたものではない。ドナルド・トランプという希代のポピュリストが、そのような不満がアメリカ社会に燻っていることや、その不満を既存政党が汲み上げられていないことを見抜き、それを自身の独特のスタイルで自分自身の政治基盤に変えてしまったのがトランプ現象だった。だとすると、仮に2年後にトランプがいなくなっても、トランプ現象のベースとなっている不満は依然として残る。誰がその不安を汲み上げて政治的な支持につなげることに成功するかは今のところ未知数だが、その不安や不満がある以上、トランプ現象そのものはこれからも続くだろうと宮田氏は指摘する。

 そう考えた場合、2つの大きな問いが残る。

 1つ目は、共和党でトランプに代わってその不満、つまりMAGAという一大勢力をまとめ上げていけるカリスマ性ある候補はいるのか。J・D・バンス副大統領にその大役が務まるのか。マルコ・ルビオ国務長官の下でトランプ路線からの転換を図るのか。あるいは、それ以外のまったく新しい候補が出てくるのか。

 1980年の大統領選挙では、カリスマ性に富んだ元俳優のレーガンが異なる思想を持つ多数の保守勢力を束ねるレーガン・コアリション(レーガン連合)の構築に成功し、民主党から政権を奪還した。しかし、その後継者となったブッシュ(父)は、保守連合を維持できず、保守陣営からブキャナンやペローのような第三の勢力の出馬を許してしまう。結果的にそれがクリントンに敗退する原因となったことを考えると、トランプ後の共和党が同じような末路を辿る可能性はある。

 そして、2つ目が、これから民主党がどう出るかだ。今回の選挙の勝利に気を良くした民主党指導部が、この先もこれまでのようなエリートによるポリティカルコレクトネスとアイデンティティポリティックスに拘泥し、トランプの後継者によるMAGA勢力の結集をみすみす許すのか。それとも今回当選したタラリコやエル=サイードなどの新しい力を政治に反映させることで、従来のエリート政党から労働者や低所得者の側に立ったかつての党としてのアイデンティティを取り戻すことができるのか。

 アメリカの保守思想に詳しい宮田氏は今後民主党が、文化的な対立に過度にこだわらず、移民政策などについても現実的な対応を示し、労働者や中間層の生活問題を重視する政党になれば、共和党にとって大きな脅威になるだろうと述べる。

 今回の中間選挙は、民主党の勝利であると同時に、共和党が抱える連合の脆弱さを浮き彫りにした。しかし、トランプ現象の背景にある社会的な不満や政治への不信が解消されたわけではない。トランプという個人が去った後、その支持基盤を誰が束ねるのか。そして民主党が、労働者や中間層の生活に寄り添う政党へと変わることができるのか。ここから二大政党はそれぞれが自らの政治的なアイデンティティを問い直すことになる。選挙結果が示すMAGA運動の動揺と民主党の再生への課題について、宮田氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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