1975年東京都生まれ。99年武蔵大学人文学部卒業。2004年同大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。学習院大学非常勤講師、東京女子大学非常勤講師などを経て13年より現職。博士(社会学)。専門は男性学。著書に『男が働かない、いいじゃないか!』、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』など。
結局日本は男が変わらないと何も変わらないってことか。
このゴールデンウィークもメディアは相変わらずの出国、帰国ラッシュに賑わう空港の様子や、50キロ大渋滞の高速道路といった定番のシーンを取り上げている。あたかも日本中がバケーションモードに入っているような感覚を受ける。ところが、あるアンケートでは今年のゴールデンウィークが10連休だったと答えた人は6%程度。3分の1はカレンダー通りに出勤していたそうだ。
かつては「24時間戦えますか」などとCMががなり立てていた時期もあった日本が、経済停滞期に入って20年が経った。年間の総労働時間は多少短くなっているが、その一方で、一日あたりの労働時間は逆に増えている。こんな働き方をしていてはダメだと言われて久しいが、景気が良くても悪くても、日本人の働き方はさして変わっていないし、このままでは一向に変わりそうにない。
社会学者で男性学を専門に研究している武蔵大学助教の田中俊之氏は、日本人の働き方が変わらないことの原因が、男が変われないところにあると指摘する。日本の男性中心の労働環境や労働慣行が変わらない限り、働き方のみならず、われわれの生き方もなかなか変わることができない。このままでは日本の前途は暗いと田中氏は警鐘を鳴らす。
近年、働き方や価値観が変わったと言われるが、日本人男性が一家の家計を支えることが全ての前提になっている点はほとんど変わっていない。イクメンだの何だのと言っても、男性が主体的に働いていることが全ての前提にある。しかも、日本では男性が40年間フルタイムで働き続けることを前提に、職場も家計も成り立っている。
しかし、これは経済成長が見込める時代に人為的に作られた制度であり前提だ。人口が減少し、かつてのような経済成長が見込めない今日、前提が変わっているのに働き方を変えられない男性が抱える矛盾は大きくなる一方だ。
男性が40年間フルタイムで働いて家計を支えることを当然視し、それができない人を蔑視するような考え方や、長時間労働こそが会社への忠誠の証であり能力の証明とするような風習をいつまでも続けていては、男性の生きづらさは解消されず、女性が社会で活躍するための前提となる男性の家事への参加も期待できない。
「男が働かない、いいじゃないか!」などの著書のある田中氏によると、日本の男性は物心ついたときから競争に勝つことを要求されてきた結果、理不尽な慣習や制度でも競争の一環と捉え、それに順応してしまう傾向が強い。また、常に回りの人間を競争の対象と捉える傾向があるため、女性のように新しい友人のネットワークを作ることが不得手だ。結果的に、友達もできず趣味も見つからず、仕事に没頭することが男性の生き方そのものになってしまう場合が多い。
最近、1998年から続いていた年間3万人を超える自殺者数がようやく2万5000人まで減ったことが報じられているが、そのうち3分の2に当たる1万7000人強を男性が占めていることが何を意味しているかを、われわれはもう少し真剣に考える必要があるだろう。
なぜ日本の男はこうも生きづらいのか。それが社会にどのような影響を与えているのか。男が変わるためにまず何が必要なのか。日本が抱える諸問題の根っこにある日本の男の問題を、田中俊之氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。