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2019年03月16日公開

5Gを巡る米中の覇権争いと日本の選択

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第936回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
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ゲスト

野村総研エグゼクティブ・エコノミスト

1963年千葉県生まれ。87年早稲田大学政治経済学部卒業。同年、野村総合研究所入社。野村総合研究所アメリカ出向(米国経済担当)、経済研究部日本経済研究室長(日本経済担当)、金融経済研究所経済調査部などを歴任。12年~17年日本銀行政策委員会審議委員。17年より現職。著書に『異次元緩和の真実』、『トランプ貿易戦争 日本を揺るがす米中衝突』など。

著書

概要

 米中の覇権争いが激しさを増している。

 一時は第二次大戦前と見紛うばかりの報復関税合戦に発展する様相を呈していた米中貿易摩擦は、摩擦解消へ向けた両国の交渉が山場を迎え、早ければ来週にも合意に達する可能性が出てきている。しかし、1970年代以降の日米貿易摩擦がそうであったように、これとていつまた再燃してもおかしくない。

 安全保障面でも南シナ海などを舞台に両国のつばぜり合いが続いている。

 かと思えば、中国の通信大手ファーウェイの創業者の任正非氏の娘で同社のCFOを務める孟晩舟氏が、アメリカの依頼を受けたカナダ当局によってバンクーバーで逮捕され、これに対して中国が在中のカナダ人を次々と拘束するなど、報復とも思える措置に出たことで、米中間の覇権争いがいよいよ本格化してきたとの印象を持った方も多いだろう。

 いわゆる「帝国」というものがこの世に出現して以来、世界の覇権は圧倒的に軍事力に依拠していた。しかし、21世紀の覇権は意外なところに主戦場が移ってきているようだ。それが、次世代通信規格となる5G(第5世代移動通信システム)だ。

 アメリカは昨年11月の孟晩舟氏の逮捕以前から、政府によるファーウェイの通信機器の利用を制限するなど、警戒感を強めていた。その背後に、5G関連の技術開発で世界をリードするファーウェイに基地局を始めとする基幹技術を握られてしまうことが、世界のヘゲモニーに喪失につながる懸念があるのだという。

 これまで1980年代に最初の携帯電話が登場して以来、移動体の通信規格は1Gから4Gへと、概ね10年ごとに次の世代へと進化を遂げてきた。当初はアナログで人間同士の通話を可能にするだけだった移動体通信も、2G以降はデータ通信が可能になりドコモのi-modeや携帯メールなどが普及した。そして、3Gから写真などより容量の大きなデータのやりとりが可能になったことで、インスタやフェイスブックなどのSNSに写真を投稿するユーザーが一気に増えた。かつては光バイバーでした実現できなかった1Mbps以上の通信が提供できるようになった最新の4Gでは、動画の視聴やテレビ電話の利用が可能になり、YouTuberなどを大量に登場させた。そして、いよいよ今年、5Gの時代が到来する。

 世代が1Gから5Gへと進化する中で、確かに通信速度は夢のように速くなった。しかし、なぜ突然5Gだけが、これを握った者が世界の覇権を握るというような壮大な話になっているのだろうか。

 「高速大容量」、「超低遅延」、「多数端末接続」の3つの特徴を持つ5GはIoT(Internet
of Things=もののインターネット)の柱になると言われ、遠隔で手術が行われるようになったり、自動運転を実現するなど、すべての「モノ」がネットワークでつながれる時代を下支えする技術となることが期待されている。しかし、これが覇権の条件となる理由は必ずしも自明ではない。

 アメリカはファーウェイにネットワークの基幹技術を握られると、その背後にある中国政府が世界のあらゆる情報を独占するようになってしまうとして、その危険性を喧伝し、同盟国にもファーウェイ製品のボイコットを呼びかけている。しかし、それはまさに4Gまでアメリカがやってきたことに他ならないことが、エドワード・スノーデンの内部告発などで明らかになっている。

 今のところアメリカの呼びかけに対して、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの、諜報活動についてUKUSA協定を締結しているいわゆる「ファイブアイズ」のアングロサクソン諸国に加え、日本とドイツがこれにファーウェイ製品の排除に歩調を合わせる姿勢を見ている。しかし、低価格で進んだ技術を提供できるファーウェイを排除するということは、より割高なインテルやクアルコムの技術を買わなければならないことを意味しているため、他の国々がアメリカの動きに同調するかどうかは未知数だ。

 元日銀の審議委員で米中の覇権争い問題にも詳しいエコノミストの木内登英氏は、中国はファイブアイズ以外の国々に対して、着実にそのネットワークを拡げており、気がつけば冷戦時代のようなファイブアイズを中心とするアメリカ陣営と、それ以外の中国陣営に世界が2分化される可能性が現実のものとなってきていると指摘する。例えば、ファイブアイズ諸国では利用できる携帯電話や家電が、それ以外の国では利用できないなどということが起きても不思議はない状況だというのだ。

 これまでの歴史を見ても、世界の覇権が移行する際に、ある程度の混乱が起きることはやむを得ないことなのかもしれない。政治学者グレアム・アリソンは、覇権の移行期には戦争が不可避となる「トゥキディデスの罠」が待ち受けていると言う。しかし、そこまでわかっているのであれば、なぜ人間の叡智をもって、不毛な争いを避けることができないのだろうか。

 さて、問題は日本だ。

 地政学的に新たな覇権国家となる可能性が高い中国の、ごくごく近隣に位置する日本が、これまでの冷戦時のような発想で無条件でファイブアイズに付いていくことが日本にとって本当に得策なのかどうかは、慎重に考えてみる必要があるだろう。日本が2つの陣営の間を取り持つことで、日本にとっても地政学的なメリットがあり、世界にとっても無用な摩擦や不便益を避けることにつながるような、そんな役回りを日本が演じられる可能性はないのだろうか。

 「5Gとは何か」についてITジャーナリストの石川温氏のインタビューなども参照しながら、5Gの登場を機に顕在化している米中の覇権争いの行方の日本にどのような選択肢があるのかなどについて、エコノミストの木内登英氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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