電気事業会計の改正は粉飾以外の何物でもない
立命館大学国際関係学部教授
公認会計士
1953年三重県生まれ。78年早稲田大学政経学部卒業。同年、KPMG入所。82年公認会計士登録。2004年、キャッツ粉飾決算事件に絡み有価証券報告書虚偽記載で逮捕、起訴。06年公認会計士細野祐二事務所開設。10年最高裁でキャッツ事件の有罪が確定。その後、犯罪会計学の研究を始め、粉飾検出ソフト「フロードシューター」を開発。著書に『公認会計士 vs 特捜検察』、『会計と犯罪 郵便不正から日産ゴーン事件まで』など。
日産のカルロス・ゴーン元会長が特別背任などの容疑で逮捕・起訴された事件は、直後の大騒ぎが嘘だったかと思えるほど、最近はメディア報道も下火になっている。しかし、そうした中、ゴーン氏の逮捕直後から、この事件について地道に発信を続ける一人の元公認会計士がいる。
現在、会計評論家として犯罪会計学の研究を続ける細野祐二氏だ。
公認会計士時代の04年、自身の顧客だった害虫駆除大手「キャッツ」の株価操縦事件で有価証券報告書虚偽記載に問われ有罪判決を受けた経験を持つ細野氏は、その後、「犯罪会計学」という新分野を開拓し、企業会計基準上は虚偽に当たらない事件が、なぜ司法の場では有罪とされてしまうのかという疑問を追求してきた。
その細野氏は、日産のゴーン元会長の事件は全く犯罪事実が存在しておらず、企業会計上は、ゴーン氏は完全に無実であると言い切る。
ゴーン氏が退職後に受け取ることになっていた自らの報酬の一部が有価証券報告書に記載されなかったことが問われている事件について細野氏は、企業会計上の原則である発生主義の観点から、事件性は皆無だと断定する。仮に、その段階では支払いが確約されていたとしても、10年後に本当にそれが支払われるかは、その時の経営状況や経営者の判断次第でいくらでも変わり得る。会計基準では報酬は実際に発生した時に有価証券報告書に掲載されるべきものであり、未発生の報酬を記載しなかったことが虚偽記載になることなどあり得ないと細野氏は言う。
また、メディア上で「サウジアラビアルート」や「オマーンルート」などと呼ばれている、日産の資金を自らが支配する会社に還流させた特別背任容疑の方も、自らの金融取引の含み損を日産に肩代わりさせただの、豪華クルーザーの購入に使われたなど、メディア上では「ゴーン銭ゲバ情報」が乱れ飛ぶが、細野氏はこれが犯罪として成り立つかどうかは、サウジアラビアのハリド・ジュファリ氏やオマーンのスヘイル・バウワン氏への支払いが販売促進費として妥当な金額だったかどうかのみが争点であり、その後の資金の使途は特別背任罪とは無関係だと語る。
少なくとも起訴した段階で特捜部は、中東日産からの支払い先となったジュファリ氏やバウワン氏には事情聴取を行っていないため、支払いの内訳が何だったのかを確認することはできていないはずだ。また、ゴーン氏を特別背任罪で起訴してしまった今、ジュファリ氏やバウワン氏は共犯者となってしまったため、逮捕される怖れのある日本に来ることも考えられない。その状況下で、両氏の会社への支払いに背任性があったかどうかをどうやって判断するのか。公判で弁護側が監査決裁決算書を証拠提出して、会計上の損害がないことを立証した瞬間に、特別背任はまったく成り立たなくなると細野氏は言う。
そもそも特別背任罪は、日産に意図的に損失を与えたかどうかのみが争点であり、妻のクルーザーだの子息の学費だのといったもろもろの話は、ゴーン氏がいかにも悪者であるかのごとく見せるための検察とメディアの策略でしかないというのが、細野氏の見立てだ。
しかし、日本のメディアが協力するために、ゴーン氏を真っ黒に塗りたくり、世論を味方につける検察の作戦は、かなり功を奏している。
細野氏は、企業会計上は明らかに有価証券報告書の虚偽記載も特別背任も成り立たないことが明白でも、世論やメディア、裁判所そして検察の企業会計や複式簿記に対する無理解のために、ゴーン氏が有罪にされてしまう可能性は十分にあると語る。
なぜ会計士から見ればまったく犯罪事実が存在しないような事件が、経済犯罪として成り立ってしまうのか。特捜検察という特殊な仕組みが経済事犯ととても噛み合わせが悪いのはなぜか。企業会計上は違法性のない経済犯罪で有罪にされないためには何をしなければならないのかなどを、細野氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。