2014年10月18日
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再エネ固定価格買取制度は失敗したのか

植田和弘氏(京都大学大学院経済学研究科教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第706回

 9月24日に九州電力が、再生可能エネルギーの接続手続を保留すると、唐突に発表した。
 そして、九電に続き、北海道電力、東北電力、四国電力、沖縄電力など合わせて5つの電力会社が相次いで接続手続きの保留を発表したことで、原発や化石燃料を利用する発電に代わる新たな電力源となることが期待される再生可能エネルギー推進の大前提となる「固定価格買い取り制度」が、大きな挫折に直面することとなった。
 太陽光や風力などを利用して発電する再生可能エネルギー(再エネ)は、福島原発事故で原発に依存したエネルギー政策への反省を元に2012年に制定された通称「再生可能エネルギー促進特措法」によって、電力会社が新規参入企業や家庭で発電した電力を買い取ることが義務づけられていた。電力会社しか送電網を保有していないためだ。
 最初に「接続保留」の口火を切った九電の説明によると、九州全域で太陽光発電の発電量が大幅に伸びた結果、既に申し込みが行われた事業者による発電がすべて始まると、計算上、再エネだけで既に九電管内の春と秋の昼間に予想される消費電力を超える量の電力が発電されることになるという。しかし、その大半を占める太陽光発電は天候に左右されやすいため、このままでは電力供給が不安定になってしまうというのが九電側の言い分だ。
 「再生可能エネルギー促進特措法」には、電力供給が不安定になる恐れがある場合は、電力会社は再エネの買い取りを拒絶できるという条文が盛り込まれている。今回の九電など5電力の「保留」の決定は、まだ買い取り拒否には至っていないが、「電力供給が不安定になる恐れ」の条文がその背景にあることはまちがいない。
 固定価格買取制度の根幹を成す再エネの調達価格を決定する有識者会議の委員長を務めた京都大学大学院の植田和弘教授は、今回の事態について固定価格買取制度が破綻をしたとの見方を言下に否定する。むしろ、固定価格買取制度が当初想定した通りに機能し、再エネの発電量が順調に伸びてきたのに対し、それを支えるインフラとなる系統(送電網)の拡充や送電網を電力会社による独占から解放する発送電分離などが、そのスピードに全く追いついていないところに、原因の根幹があると指摘する。
 再エネ、とりわけ太陽光発電の買い取り価格を高く設定しすぎたことが、太陽光の急激な増加に繋がったのではないかとの指摘に対しても、そもそも買い取り価格制度自体は、再エネを急速に普及させるための制度であり、その批判は当たらないと植田氏は言う。
 そして、本来は再エネの増加を予測した上で、それに合わせて系統の拡充や電力会社間の広域連携の整備も同時進行で行われる必要があったにもかかわらず、電力会社も政府もその対応を怠ってきたことのツケが今回まわってきたと指摘する。
 また、今回5電力が接続を保留する措置に出たことについても、変動電源のシェア拡大によって系統が不安定化することを防ぐ手立てとしては、余剰の電源を貯めておくことができる揚水発電や、他の電力会社との間で融通しあう広域連携の拡充など、いろいろな手段が考えられるにもかかわらず、前触れも無く唐突に接続を止めるという措置は性急であり、その妥当性についてもしっかりとした検証が必要との見方を示す。
 原発依存路線を選んだが故に、世界から10年以上遅れているとされる日本の再エネ市場は、固定価格買取制度が導入された2012年以降、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長してきた。しかし、いくら成長したとは言っても、日本における再エネのシェアは依然として3%程度であり、既に20%を超えるドイツやスペインの足下にも及ばない。それだけ大きな変動電源のシェアを抱える国々の系統が、シェアが2割を超える再エネを消化できていることを考えあわせると、植田氏が指摘する通り、日本が系統の整備を怠ってきたことは否めない。
 しかし、理由は何であれ、今回、5つの電力会社が一方的に、接続を停止したことで、固定価格買取制度によってこれまでビジネスとしての採算がほぼ保証されていると考えられてきた再エネ事業に、思わぬリスクが潜んでいることが顕在化してしまったことだけは間違いない。ここでハンドリングを誤ると、これまで順調に伸びてきた再エネ市場の成長に冷や水を浴びせる結果になる恐れが大きい。
 自然から生まれる再生可能エネルギーは、原子力や火力のような環境負荷の高い廃棄物を出さない、つまり廃棄制約に縛られない上に、既存の中央集権的な発電と比べて、地域社会に与える恩恵も大きい。政府が目指す原発に依存しない社会を構築するためにも、再エネの成長は不可欠だ。
 今回の5電力による買い取りの停止によって、日本の再エネ市場の成長に水を差すようなことにならないために、われわれは今何をしなければないのだろうか。あの悲惨な福島第一原発事故の最大の置き土産とも言うべき再生可能エネルギーの成長を支える固定価格買取制度を骨抜きにしないための方策を、ゲストの植田和弘氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

 
 
植田和弘うえた かずひろ
(京都大学大学院経済学研究科教授)
1952年香川県生まれ。75年京都大学工学部卒業。83年大阪大学大学院工学研究科博士課程修了。博士(工学、経済学)。京都大学経済学部教授などを経て97年より現職。総合資源エネルギー調査会基本問題委員会・委員長代理、調達価格等算定委員会・委員長、国家戦略室需給検証委員会・委員、大阪府市エネルギー戦略会議座長を務める。著書に『緑のエネルギー原論』、『環境と経済を考える』など。 706_ueta
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