2016年6月18日
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18歳選挙権で試される日本の成熟度

斎藤環氏(精神科医・筑波大学医学医療系教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第793回(2016年6月18日)

 精神科医の斎藤環氏は、選挙年齢の18歳への引き下げに反対している。大勢の引きこもりの若者を診てきた経験から、日本社会に若者の成熟や自立を支える準備ができていないと考えているからだ。

 6月19日に改正公職選挙法が施行され、選挙権を与えられる年齢が18歳に引き下げられる。7月10日に投票が見込まれている参議院議員選挙は、18歳選挙権が実施される初の国政選挙となり、自民党は、若者票を当て込んで比例区の候補者に元アイドルグループのメンバーを擁立する一方、民進党は給付型奨学金制度の創設を謳うなど、与野党とも若者に対するアピールに余念がない。今回の引き下げで、全有権者の約2%に相当する約240万人の若者が新たに選挙権を手にすることになる。

 世の大人たちは、選挙年齢の引き下げによって若者の政治への参加意識が高まり、責任感も増すのではないかと、おおむね肯定的のようだ。また、欧米諸国で18歳から投票権を与えていることも、今回の制度改正を支持する理由になっている。

 しかし、若者の自立や成熟を支援する制度を強化することなく、単に選挙年齢を下げれば自動的に若者の自立や政治参加が進むと考えるのは、「根拠がない」と斎藤氏は言う。
 選挙年齢を下げれば、次は成人年齢を18歳に引き下げようという議論になることは必至だ。それは現行制度の下では子供として保護の対象となっている18歳、19歳の若者を大人として扱い、年金や社会保障費や刑事罰で大人と同等の義務や責任を負わせることを意味する。

 そもそも今回の18歳への選挙年齢の引き下げは、憲法改正のための国民投票の対象年齢を18歳としたことに合わせるためだった。国民投票年齢を18歳とした背景には、憲法改正を目指す自民党が、若年層が憲法改正に前向きであることを意識したためであると考えられている。

 選挙年齢がそのような「不純な動機」で引き下げられる一方で、若者の引きこもりは深刻の度合いを増していると斎藤氏は言う。多くの若者が、携帯電話やSNSによって繋がる友人関係から外れまいと、必死にキャラを演じながら、過剰なプレッシャーに耐えている。そのプレッシャーに耐えられなかったり、そこから外れてしまった若者の多くが、不登校や引きこもりなどの手段によって自己防衛に走る。その数は正確にはわからないが、人口の5%~10%に及ぶとの推計もあると、斎藤氏は言う。

 このような引きこもりの問題も解決できない日本が、選挙年齢を引き下げて18歳の若者を成人として扱い、一人前の責任を求めるようになれば、今以上に多くの若者が社会から隔絶されてしまう恐れがある。今日本が優先的に考えなければならないことは、若者の責任を増やすことではなく、若者の自立を支援する体制を強化することではないかと斎藤氏は語る。

 選挙年齢の引き下げは妥当なのか。18歳に選挙権を与え、これを大人として扱うだけの体制が日本の社会にできているのか。成人年齢の引き下げ論議や、社会的弱者としての若者対策の現状などを参照しながら、ゲストの斎藤環氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

 
斎藤環さいとう たまき
精神科医・筑波大学医学医療系教授
1961年岩手県生まれ。86年筑波大学医学専門学群卒業。90年筑波大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。爽風会佐々木病院勤務を経て、2013年より現職。著書に『人間にとって健康とは何か』、『ひきこもり文化論』など。 793_saito

 

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