2013年11月30日公開

[5金スペシャル]秘密保護法が露わにした日本の未熟な民主主義とアメリカへの隷属

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第659回)

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
(期限はありません)

概要

 5回目の金曜日に特別企画を無料放送する恒例の5金スペシャル。特定秘密保護法案の国会審議が佳境を迎えるなかでお送りする今回は、法案をめぐる一連の議論が露わにした日本の課題を再考した上で、国家機密にまつわる映画を通して秘密法制と民主主義の関係を議論した。
 秘密保護法案については、秘密指定権限が明確に決められていないことからくる濫用のリスクや外部チェック不在の問題など多くの課題が指摘されている。秘密法制は一旦施行されてしまえば濫用や問題点が外から見えなくなる特性があるため、制度設計には十分過ぎるほどの慎重さが求められるのは言うまでもない。しかし、安倍政権は11月26日に特定秘密保護法案の衆院通過を強行し、参院では僅か1週間あまりの審議で何が何でも同法案を12月6日の会期末までに成立させるつもりのようだ。
 政府が保有する情報の中で、国の安全保障に関わる情報の中にはどうしても一定期間秘密にしなければならないものがある事は理解できる。また、法律によって明確に秘密が定義されていないために政府が裁量で自由に秘密指定をしている現状も、決して望ましい状態とは言えない。特定秘密保護法はやり方次第では、政府が秘密に指定できる権限を明確に定義することで、保護されるべき秘密は保護しつつも、これまでのような無節操な秘密指定権限の濫用を防ぐ効果が期待できる、市民社会にとっても歓迎すべき法制度になるはずのものだった。
 ところが、政府から出てきた法案はまったく逆行していた。政府の秘密指定権限を事実上無制限に拡大し、しかも権限の濫用を外部からチェックする機能も盛り込まれていない。民主主義の国としては到底受け入れられない恥ずかしい内容の法案だった。
 「秘密保護法制が必要だ」となった時、政府に任せておくとなぜこのようにあり得ないような法案ができあがってしまうのだろうか。日本には保護されるべき秘密は確実に保護した上で、秘密指定権限の濫用を避けるための最小化措置や外部監査機能をしっかりと盛り込んだ法律を作るだけの民主主義国としての実力がないということなのだろうか。
 国民に主権がある日本では、政府が保有する情報は基本的にはすべて国民のものだ。しかし、日本にはそもそも政府が保有する公文書を厳正に管理して、国民の求めに応じて適宜情報公開する仕組みが十分に整っていない。公文書管理法や情報公開法などが一応は存在するが、いずれも不十分な内容だ。また、憲法で表現の自由が保障されているが、これまでジャーナリズムを担ってきたマスメディアは記者クラブや再販など政府から様々な制度的特権を享受する中で、十分に国民の知る権利を行使してきたとは言いがたい。そうした民主主義のツールの一つひとつをお座なりにしてきたことのつけが、今回の秘密保護法制の議論で吹き出しているようにも見える。
 番組前半では、ここまでビデオニュースが行ってきた取材、関係者へのインタビュー、講演の映像を交えながら、特定秘密保護法案の仕組みや問題点などを改めて再確認した。
 そして番組後半では、映画『密約 外務省機密漏洩事件』に描かれた沖縄返還をめぐる日米密約問題と、国家機密だったアメリカの対ベトナム政策の報告書がニューヨークタイムズにすっぱ抜かれた「ペンタゴン・ペーパー事件」を題材としたアメリカ映画『The Pentagon Papers』を取り上げ、国家秘密が暴かれた後の日米両国の反応の違いなどを議論した。
 ペンタゴンペーパーの内容が報じられ、ベトナム戦争の実態や政府の嘘が露呈したアメリカでは、歴代政権の対ベトナム政策が批判に晒され、インドシナからの撤退へとつながっていった。機密文書の公開という国益を損ねかねない行動が、「国益」の意味を変えてしまったからだった。一方、日本では毎日新聞の西山太吉記者が国家的な陰謀と言っても過言ではない日米密約の存在を暴いたにもかかわらず、西山氏の取材手法ばかりに批判が集中し、政府が国民を欺いていたという事実はほとんど問題とならなかった。この違いはどこから来るものなのか。
 秘密保護法制をめぐる一連の議論を通じて見えてきた日本の政治と社会の現状を、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
 今週は5金(その月の5回目の金曜日)に当たるため、恒例通り特別番組を無料で放送します。ニュース・コメンタリーはお休みします。

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