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2015年01月24日公開

日本は『十字軍』の一員なのか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第720回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
(終了しました)

ゲスト

1951年福岡県生まれ。74年大阪外国語大学外国語学部ペルシャ語科卒業。76年米コロンビア大学大学院修了。79年同大学博士課程単位取得。学習院大学非常勤講師、クウェート大学客員研究員、放送大学助教授などを経て2008年より現職。著書に『アメリカのイラク戦略ー中東情勢とクルド問題』、『アラブとイスラエルーパレスチナ問題の構図』など。近著に『イスラム国の野望』。

著書

概要

 イスラム国が人質となった2人の日本人の殺害を予告する映像を公開した。
 1月20日にYouTube上に公開された映像では、ナイフを手にしたイスラム国の構成員と見られる黒覆面の男が、オレンジ色の装束を着せられた湯川遙菜さん、後藤健二さんの2人を跪かせた上で、日本政府と日本国民に対し、72時間以内に2億ドルが支払われなければ人質の命はないと警告している。また、その映像は2億ドルの根拠として、中東歴訪中だった安倍首相がその直前に発表した「イスラム国と闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度の支援の約束」したことをあげている。それによって日本は明確にイスラム国と敵対する立場を選んだとイスラム国は言う。
 その映像が公開されて以降、日本のメディアは人質問題の報道一色となっている。人命がかかった緊迫した状況下で、日本政府の対中東外交政策を議論するような「そもそも論」には違和感を覚える方もいるかも知れない。しかし、今回の人質問題の意味を正しく理解し、政府のとるべき対応や選択肢を考えるためには、ビデオの冒頭でイスラム国側が指摘している「日本は自らの意思で十字軍に加わった」とする指摘の検証は不可欠だ。日本はイスラム国が十字軍と呼ぶものに本当に加わったのか。加わったとすれば、いつから、そうなったのか。その是非は十分に検討され、国民にも説明されたものだったのかなどを、今あえて問いたい。
 言うまでもなく十字軍というのは、中世に西ヨーロッパのキリスト教諸国が、聖地エルサレムをイスラム教諸国から奪還することを目的に派遣した遠征軍のことで、イスラム側から見れば武力による侵略者であり残忍な略奪者でもあった。そして、今回の「十字軍」という表現はイスラム国が敵対する国々を「イスラムの敵」と位置づけ、勝手にそう呼んでいるに過ぎないかもしれない。おそらく、米英を中心とする諸国との対立を宗教的な対立と位置づけることで、イスラム教集団としての自らの正当性を強めようとの思惑もあるだろう。
 とは言え、そもそも日本はキリスト教国ではないし、中東のイスラム諸国とはいたって良好な関係を維持してきた国だ。とかく外交においては「アメリカのポチ」と揶揄されながら、こと中東外交においてはイスラエル一辺倒のアメリカとは明らかに一線を画した独自の路線を守ってきた。そしてそれは中東からの原油輸入に大きく依存する日本が、1973年のオイルショック以来守ってきた、経済的合理性を念頭においた外交路線でもあった。
 しかし、今回の中東訪問で安倍首相は単に「イスラム国」との対決姿勢を明確にしただけにとどまらず、イスラム諸国と激しい生存競争を繰り広げているイスラエルに寄り添う姿勢を明確に打ち出している。もしここにきて日本が、アメリカと足並みを揃えんがためにその中東外交を大きく転換させようとしているのだとすれば、その是非やプロ・コン(プラスとマイナス)は十分に検討されなければならないはずだ。
 中東情勢や日本の対中東外交に詳しい高橋和夫放送大学教授は、今回の中東訪問における親イスラエル路線の表明はアメリカと足並みを揃えることと同時に、安倍政権がイスラエルに接近するメリットがあると判断していることを反映しているとの見方を示す。武器輸出やカジノ解禁など安倍政権が推進したい政策にはイスラエルや世界のその分野を牛耳るユダヤ資本との連携が不可欠なものが多いことを高橋氏は指摘する。
 高橋氏は日本の中東外交は、単に「イスラム国」との対決を明確に表明するだけにとどまらず、イスラエル対イスラム諸国の対立関係において、よりイスラエル寄りの姿勢にシフトしていると説明する。安倍首相は「イスラム国」の人質ビデオが公開された直後の記者会見を、訪問中だったイスラエルのエルサレムで行い、テロに屈しない意思を明確に表明しているが、それはイスラエル国旗と日の丸が並び立つ前で宣言されている。映像的には日本がイスラエルと手を携えて、イスラエルと敵対するイスラムのテロと対峙していく姿勢を明確に打ち出したと受け取られて当然だった。
 これについてはもう少し配慮のある対応が必要だったと高橋氏は言う。「イスラム国」がイスラムを代表しているわけではないにしても、「日本が十字軍に参加した」ことを理由に起こされた事件のただ中で、「六芒星旗」(イスラエル国旗・六芒星はダビデの星の意味)を前に決意表明をするというのは、もしこれが意図的でなかったのであれば、あまりにも外交センスに欠けるし、意図的だったとすれば、人質問題への悪影響を無視していると言わざるを得ない。高橋氏はあの映像には「イスラム穏健派でも違和感を感じただろう」と言う。
 日本はこれまで中東のイスラム諸国にはとても好かれてきた。中東では相手が日本人と分かれば、誰もが友好的に接してくる。イラク戦争にはアメリカの「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」の要求で自衛隊を派遣しているが、人道支援にとどめ、イスラム諸国とは一度も戦火を交えていない。少なくとも彼らにとってこれまで日本は侵略者ではなかったし、そもそも日本にはイスラム諸国と戦火を交えなければならない理由もメリットもなかった。
 そして日本人はその素朴さゆえに、人間としても中東では好かれているし、信用されていると高橋氏は言う。これは日本にとってはとても大きな資産だ。依然としてエネルギー源で中東からの原油に大きく依存する日本にとって、中東との良好な関係は経済的なメリットも大きいし、欧米とイスラム諸国の対立が激化し、終わりなき宗教戦争の様相を呈する中で、もしかすると中東との関係がよく、非キリスト教国の日本は、その和解の一助となる役割を演じることができる数少ない先進国になり得たかもしれない。
 無論、アメリカは日本にとって重要な同盟国だ。イスラエルとの関係も特定の政策遂行の上では大きなメリットがあるのかもしれない。しかし、それと引き替えに日本がイスラム国との間で長い年月をかけて培ってきた信頼関係や良好な関係が大きく損なわれるとすれば、それこそプロ・コンが十分に検証されなければならないだろうし、国民的なコンセンサスも必要なはずだ。
 イスラム国がイスラム世界を代表しているわけではないとしても、今回の人質事件によって日本の対中東政策は否が応でも世界の注目を浴びることになる。イスラム世界は日本の対応を注視している。
 日本は十字軍に参加したのか。その結果、手にするものと失うものは何なのか。日本が政策変更によって、今回の人質事件のようにイスラムのテロリストの標的となる確率を高めてまで得られるものとは何なのか。今も進行中の人質事件の直接の発端となったとされる今回の首相の中東訪問の意味と日本の対中東外交政策の変遷などを、高橋和夫氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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