2011年10月8日
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そしてアメリカは変わったのか

渡辺靖氏(慶應義塾大学環境情報学部教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第547回

 9月に小規模に始まったウォール街のデモは、1万人規模にまで膨らみ、一向に収束の兆しを見せていない。様々な理由から若者を中心に老若男女が全米から金融の中心地に結集している平和的なデモだが、その底流にあるのはそれぞれが持つアメリカの政治、経済、社会の現状に対する不満だ。
 アメリカ研究が専門の渡辺靖慶応大学教授は、デモの直接的な背景には、高い若者の失業率や多国籍企業に牛耳られた経済体制などに対する不満があると分析する。
 実際、アメリカでは失業率が高止まり状態にあり、19歳から25歳の失業率は4割を超えると言われる。1980年から続く「小さな政府」の流れで経済格差は広がり、多国籍企業や富裕層がますます肥える一方で、貧困層の人口が急増している。豊かなアメリカを象徴する、30歳までに庭付きの家に住み、複数の自動車を所有し、子供を全員大学に送れる「分厚い中間層」は、もはや古き良き時代になりつつあると言っていいだろう。
 しかし、そうしたデモや格差や失業率があっても、アメリカの保守化の流れはまだしばらくは止まらないだろうと、渡辺氏は見る。現在の保守化傾向は、大恐慌後の50年続いた左派によるニューディール政策の後、レーガン政権の誕生とともに始まった保守化がまだ続いているもので、オバマ大統領が支持率を下げている理由の一つは、そのリベラルな政策が今のアメリカの潮流と合致していないためだと言うのだ。
 むしろアメリカの保守化の流れは、9・11以降、アメリカ人のセキュリティに対する考え方の変化に如実に現れている。何よりも自由とプライバシーを重んじるはずのアメリカ人が、空港で顔写真の照合や指紋の採取に唯々諾々と従い、図書館での図書の借り出し情報をFBIに収集されても文句一つ言わないのは、テロの脅威を排除するためにはそうした施策が不可欠だと考えているからだ。
 こうして考えていくと、もはや今のアメリカには、最大の魅力だった豊かな中間層も、最大の美徳だった自由を重んじる国民性も失われつつあるようにも見える。
 しかし、渡辺氏は今のアメリカの状況をアメリカ凋落の始まりと見るのは、過ちだろうと言う。これまで歴史上何度となくアメリカ衰退論が語られてきたが、そのたびにアメリカは誰もが予想しなかった形でそれを跳ね返してきた。
 9・11以降、アメリカの何が変わり、何が変わらなかったのか。先週4本のアメリカ映画を通して見た「自分探しするアメリカ」は、これからどこへ向かおうとしているのか。更に、アメリカの復元力を日本も模することはできないのか。気鋭のアメリカウオッチャー渡辺氏と、アメリカの今とこれからを議論した。

  • ・小沢裁判から見えてきたもの
  • ・これだから日本はエネルギー政策すら転換できない
 
渡辺靖わたなべ やすし
(慶應義塾大学環境情報学部教授)
1967年北海道生まれ。90年上智大学外国語学部卒業。92年ハーバード大学大学院東アジア地域研究科修士課程修了。97年同大学大学院人類学部博士課程修了。社会人類学博士。ケンブリッジ大学、英オックスフォード大学、ハーバード大学客員研究員などを経て、06年より現職。著書に『アメリカン・センター アメリカの国際文化戦略』、『アメリカン・デモクラシーの逆説』など。 547_watanabe

 

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