2013年8月17日
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オリバー・ストーンが語る「アメリカ暗黒の歴史」

春名幹男氏(ジャーナリスト)
マル激トーク・オン・ディマンド 第644回

 毎年この時期になると、広島、長崎への原爆投下に関する新たな事実が判明し、68年前たってもなお、原爆については明らかになっていないことがたくさん残っていることを痛感させられる。
 しかし、今年の8月は例年とはやや違う展開があった。アメリカの戦争への関与を批判する作品を作り続けてきたアメリカの映画監督オリバー・ストーンが、アメリカの原爆投下にまつわる「嘘」を厳しく批判するドキュメンタリー映画「もうひとつのアメリカ史」を制作し、8月6日に広島、そして9日には長崎の原爆祈念式典にそれぞれ参列したのだ。
 ストーン氏が歴史家のピーター・カズニックと共同で制作した「もうひとつのアメリカ史」という歴史ドキュメンタリーは、いわばアメリカの暗黒の歴史を描いている。そして、その中でも彼が最も今回の来日で強調したことは、アメリカが日本に原爆を落とした本当の理由は、定説となっている日本に早期の降伏を促すためではなく、あくまでソ連を牽制する目的だったということだった。
 「原爆を落とさなくても日本の降伏はソ連の参戦で確定的だった。しかし、アメリカは旧ソビエトの南下を防ぐためあえて原爆を落としたのだ」とストーン氏は言う。
 ストーン氏はアメリカが原爆投下に至る過程が、1944年の民主党大会に始まったと指摘している。ルーズベルト大統領の死後、大統領に就任することになるミズーリ州選出の上院議員ハリー・トルーマンを副大統領候補に選んだこの党大会が、結果的に「歴史の分水嶺」になったとストーン氏は語る。
 この党大会では当初、ルーズベルト政権で2期副大統領を務めていたヘンリー・ウォレスが副大統領候補に指名されることが確実視されていた。しかし、ウォレスが再度副大統領に選ばれれば、病状が深刻な状態に陥っていたルーズベルト大統領が任期中に死亡した場合、ソ連に対して友好的な姿勢を公言していたウォレスが大統領になってしまう。それだけは避けたいと考えたアメリカ政界の保守派たちは、当時無名の上院議員だったトルーマンを担ぎ、熾烈な多数派工作でウォレス再選の阻止に成功したのだという。
 ルーズベルトの死後、大統領に昇格したトルーマンは、自分を副大統領に押し立ててくれた保守派の重鎮たちを重用した。日本への原爆投下は、バーンズ国務長官ら反共色の強いトルーマンの取り巻きたちの強い意向によって強行された、もっぱらソ連への牽制を目的としたものだったというのが、ストーン氏が原爆投下の起源を44年の民主党大会に見出す理由なのだ。
 ストーン氏らが原爆にこだわる理由は、単にその非人道性にあるわけではない。それは、原爆をめぐる嘘や欺瞞が、現在アメリカが抱える問題をほとんどに反映されていると彼らが感じているからだ。そして、冷戦の終結でソ連という対外的な脅威の対象を失ったアメリカは、テロとの戦いを口実にサイバー戦争でも覇権を握ろうと躍起になっている。
 ストーン氏らが8月12日に外国特派員協会で行った講演を参照しながら、彼らの歴史観が描くアメリカのもう一つの歴史を検証し、深々とそのアメリカと一蓮托生の関係に嵌っていくことの意味をゲストの春名氏とともにジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

  • ・アメリカで原発の使用済み核燃料の処分場建設問題が再燃か
  • ・田代元検事の報告書偽造問題はまだ終わっていなかった
 
春名 幹男はるな みきお
(ジャーナリスト)
1946年京都府生まれ。69年大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。同年共同通信社入社。本社外信部、ワシントン支局長、特別編集委員などを経て07年退社。名古屋大学大学院教授などを経て10年から早稲田大学大学院客員教授を兼務。著書に『米中冷戦と日本』、『秘密のファイル—CIAの対日工作』など。 644_haruna

 

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