2014年6月7日
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年金制度に対する根本的な疑問とその解

駒村康平氏(慶應義塾大学経済学部教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第686回

 厚生労働省が6月3日に発表した公的年金に関する長期見通しによると、日本経済がある程度以上のペースで成長すれば、目安とされる「所得代替率」の50%は辛うじてクリアできるが、過去20年の鈍い経済成長が続けば、35%まで低下するという。所得代替率というのは現役世代の手取り平均収入と厚生年金のモデル世帯における給付の割合で、端的に言うと引退して年金をもらう年齢に達した時、現役時代の平均給料の何割が年金として支給されるかを示すものだ。
 現行の所得代替率が63%であることを考えると、経済成長をした「バラ色シナリオ」の場合でも、2044年度には現役時代の半分程度しか年金が支給されなくなると聞けば、老後に不安を覚えるのは当然だが、それほどの経済成長が期待できる根拠が必ずしもあるわけではないことを考えると、特に国民年金にしか加入していない約4割の加入者にとって、年金はもはや老後の安寧を保障する制度とは言えなくなったと言わざるを得ない。
 社会保障政策や年金問題に詳しい慶応大学教授の駒村康平氏も今回の政府の試算について、「経済成長を高く見積もった条件での試算が目につく。また、このままでは年金財政は維持できるが、最低保障という年金本来の機能が失われてしまう恐れもある」と厳しい見方を示す。しかし、試算を発表した厚生労働省などは「経済が順調に成長すれば年金制度が直ちに崩壊する状態ではないことが示された」とする立場のようだが、そもそも定年退職後の老後の生活を保障するのが年金の役目なのであって、単に破綻をさせないことが年金の目的ではないはずだ。
 実際、国民の多くは、このまま年金制度が維持できるかどうか、将来年金をもらえるかどうかに対してとても懐疑的になっている。給付を減らしたり給付年齢を引き上げたり、あるいは保険料を上げたりすれば年金制度そのものは破綻しないかもしれないが、誰も年金を当てにしなくなれば、制度としては破綻していなくても、実質的にはほとんど無意味な存在になってしまう可能性も少なくない。一方で、年金ではダメだとなると、日本のように急激な少子高齢化が進む国で、社会はどのような形で高齢者を支えていけばいいのだろうか。
 年金制度に関する議論では、現在の制度を手直ししていく修正型や賦課方式をやめて積み立て方式に移行する積立型、または年金財源を全額税金で賄う税方式化型などいくつかの類型がある。その中で駒村氏は、税金で最低保障部分をカバーしながら報酬比例部分は残していく制度を提唱する。これはスウェーデン型と呼ばれる方式で、基本的には現役時代の負担に対して応分の年金が支給されることとし、それでは年金の支給額が現在の国民年金の給付基準を下回ってしまう低所得層に対しては、生活保護と同様の考え方で税金によって一定額を補填するというもの。そうすることで、「たくさん払った人はそれ相応の年金を受け取れる」一方で、所得が低くて僅かしか年金を支払わなかった人が、とても老後の生活を支えられない程度の年金しかもらえなくなるような事態を避けることが可能になる。
 生活保護と重なる部分をあえて年金という制度に組み入れることで、年金受給額と生活保護費の逆転現象を防止することができる上、生活保護受給高齢者の心理的負担も軽くする効果も期待でき、自分が支払った保険料が受給に反映される部分を残すことで、「どうせもらえないのなら保険料は払わない」という懐疑論を排除して、年金制度全体への信頼感は維持できるというのが、駒村氏の評価だ。
 年金は給付を減らしたり給付年齢を引き上げたり、あるいは保険料を上げたりすれば、制度そのものは破綻しないかもしれない。しかし、年金が老後の生活を保障するものにならなければ、もはやそれは年金の意味を成さない、単なる積み立て定期預金になってしまう。「年金は破綻しません」と言っているだけでは意味がないのだ。
 国家の根幹に関わる公的年金問題をわれわれはどう考えればいいのか。今回示された試算を参照しながら、年金制度に関する議論の状況や政治の役割、報道の問題点などについて、ゲストの駒村康平氏とともにジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

 
駒村 康平こまむら こうへい
(慶應義塾大学経済学部教授)
1964年千葉県生まれ。88年中央大学経済学部卒業。95年慶応義塾大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。国立社会保障・人口問題研究所研究員、東洋大学経済学部教授などを経て2007年より現職。経済学博士。厚生労働省社会保障審議会年金部会委員を兼任。著書に『大貧困社会』、『福祉の総合政策』、『年金改革』など。 686_komamura
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