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2014年07月12日公開

人口減少という歴史の必然と向き合うために

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第691回)

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ゲスト

1947年静岡県生まれ。69年慶應義塾大学経済学部卒業。74年同大学大学院経済学研究科博士課程満期退学。慶應義塾高等学校教諭、上智大学経済学部助教授を経て87年より現職。専門は歴史人口学・日本経済史。著書に『2100年、人口3分の1の日本』、『図説 人口で見る日本史』など。

著書

概要

 少子高齢化と人口減少という、世界の先進国に共通する問題で最も先頭を走る日本。安倍政権は6月24日に出した「骨太の方針」で50 年後に1億人程度の人口を維持することを目標に掲げている。しかし、歴史人口学が専門の鬼頭宏上智大学教授は、先進国における人口減少は歴史の必然であるとして、これは避けられないものとして向き合うことの必要性を説く。
 鬼頭氏は一つの文明が限界を迎える時、その社会は調整局面に入り、調整の一環として人口減少が起きるとして、日本にも縄文時代以降3度の人口減少期があったことを指摘する。最初の人口減少期となった縄文時代後期には、気候変動などによりそれまでの採集・狩猟生活が限界を迎えたために一時的に人口が大きく減少している。しかし、その後稲作が導入され、日本は再び人口増加に転ずる。他にも、日本では室町末期から鎌倉前期と江戸末期にそれぞれ人口減少期を経験しているが、いずれもそれまで社会を支えていたシステムが限界を迎え、新たなシステムに切り替わるまでの間の調整の一環として人口が減少したのだという。
 歴史的な文脈で見ると、眼下の人口減少は日本にとっては4度目の人口減少局面ということになる。確かに政府の施策の基礎となる国立社会保障・人口問題研究所の推計でも、出生率が現在の状態から大きな改善が見られなければ、約50年後の2060年には日本の人口は現在の1億2000万から8674万人に、2110年には3906万人まで減少するものと予想されており、減少の幅は決して小さくはない。
 では、今回の人口減少の背景にある文明の限界とは何を指しているのだろうか。鬼頭氏は日本を含む先進国の人口減少は実は1970年代から始まっていたと指摘する。医学の進歩や平均寿命の延びなどもあり、実際に日本の人口が減少に転じたのはここ数年のことだが、1970年代には既に合計特殊出生率が人口維持の前提となる2.0を割り込んでいた。そしてそれはローマクラブによる「成長の限界」やレイチェル・カーソンの「沈黙の春」など経済成長や物質文明の限界を示唆する各種の報告や、74年に開かれた国連による第3回世界人口会議などともほぼ同じ時期に起きている。また、第4次中東戦争やオイルショックなども重なったことで、20世紀の物質文明の限界を世界の多くの人が感じた時代だったと鬼頭氏は言う。
 現在の調整局面を経て、次の時代の文明がどのようなものになるかは今のところ誰にもわからない。また、目下の人口減少がどの程度続くかもはっきりしたことはわからない。しかし、仮にマクロな視点で見たときの人口減少が歴史的な必然であったとしても、人口が減ることによって社会に様々なマイナスの影響が出ることは避けられない。政策面では人口減少のペースを少しでも和らげる施策や、その影響を最小限に抑えるための手立ては必要だ。
 人口減少の原因となっている少子化には(1)子どもの生存率上昇(2)将来の不確実性と国民の意識(3)変らない社会構造という「3つの必然」があると鬼頭氏は指摘する。乳幼児の死亡率が高ければ、跡取りとしても労働力という意味でも親は子どもを多めに作ろうとするという。しかし、子どもが死ぬ心配がなくなると、言葉は悪いが「スペア」を作っておく必要性が低下する。それが1)の子どもの生存率の上昇が少子化の原因となる由縁だが、1)を政策的に変えることは難しいとしても、2)と3)、すなわち将来不安の払拭や子どもを産み育てるための社会制度の充実などは、政策レベルでできることがまだいくらでも残っている。いや、日本はそこにあまりにも無策だったのではないか。
 先進国が人口減少という難題を抱える一方で、世界の人口は今や70億を超え、将来的には100億まで増えることが予想されている。地球が養える人口の限界が80億人と言われる中、先進国で深刻化する少子化と人口爆発を続ける途上国の格差の問題を、われわれはどう捉えればいいのだろうか。日本は人口急減社会に耐え、新たな文明システムの軸を見つけることができるのか。人口問題を入り口に世界や日本が置かれた現状と、これからなすべきことなどを、歴史人口学に詳しいゲストの鬼頭宏氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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