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2017年08月19日公開

これでいいのか日本の大学

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第854回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
(終了しました)

ゲスト

1957年東京都生まれ。81年東京大学教養学部教養学科卒業。87年同大学大学院社会学研究科社会学専攻博士課程単位取得退学。同新聞研究所助教授、同社会情報研究所教授などを経て2004年より現職。2017年9月よりハーバード大学客員教授。著書に『大学とは何か』、『「文系学部廃止」の衝撃』、『大予言』など。

著書

概要

 森友学園・加計学園と、相次いで教育と行政の関わりが問題になっているが、教育、中でもとりわけ日本の大学が、危機的な状況に瀕している。

 実際、18歳の人口が年々減少しているにもかかわらず、次々と新しい大学が作られたために、今や私立大学の4割以上が定員割れに陥っているという。その多くは中国などからの留学生で穴を埋めている状態だそうだが、定員割れの大学は事実上誰でも入れるため、逆に入学後、授業についていけずにドロップアウトする学生が半分以上にのぼる大学も少なくないという。

 かと思えば、文部科学省は国立大学への「運営交付金」を毎年1%ずつ削減するほか、国立大学の人文系学部の規模を縮小し、最終的には統廃合するよう通知したことが報じられている。

 大学に今、何が起きているのか。

 『「文系学部廃止」の衝撃』や『大学とは何か』などの著書のある東京大学の吉見俊哉教授は、文科省が国立大学の人文系学部の統廃合を通告したとされる報道はメディアの誇大報道だったことを指摘しながらも、実際、日本の国立大学では一貫して理系学部を優先する政策が採用されてきたことを問題視する。その偏りが日本という国の針路の偏りにつながっている可能性があるからだ。

 実際、日本は20世紀初頭に始まった戦時体制の下で、軍事力強化の目的で理工系の研究所が次々と建設され、理工系学生が重用されたのを手始めに、戦後も経済復興・成長に貢献できる理工系大学の優遇という形で、一貫して理系重視の政策が継承されてきた。

 2004年の大学の独法化に際して、大学は政府から支給される運営交付金が削減され、科学研究費などの「競争的資金」への依存度が増したことで、理工系優位がますます顕著になった。

 理工系の研究が軍事力の強化や企業の競争力強化に有効なことは言うまでもない。しかし、例えば戦前に「アメリカに勝つための科学力」を強化するために理系が重視されたことについて吉見氏は、アメリカに勝つという目的の是非が問われなかったのは、日本が人文系の学問を軽視してきたことの大きな落とし穴がそこにあったと考えるべきだと語る。

 実際に今日、遺伝子操作や出生前診断などに代表される生命科学や、情報通信やAIといったコンピューター技術の重要性が強調され、ますます理系重視の傾向に拍車が掛かっているが、生命倫理や循環型社会のあり方などを考察し、価値判断を下す人文系の視点が後手に回っている感は否めない。

 そもそも大学という機関が何のためにできたのか、その起源や成り立ちを見ていくと、昨今の近視眼的な理系重視の政策の問題点が浮き彫りになる。理系は「役に立つ」からが優遇されるのが当然だと言われることが多いが、そもそも何が「役に立つ」かは、何を目的に設定するかによって変わってくる。その目的が単に国力の強化や企業の競争力だけであっていいのかどうか。その価値評価や価値判断こそが、哲学や政治学、倫理学などの人文系の学問的な英知を必要としているものなのではないか。

 そもそも日本は公的な教育支出が先進国中、最低の水準にある。その日本で支援の対象が理系に偏れば、人文系の英知が隅に追いやられるのは目に見えている。そのことのツケは思った以上に大きいかもしれない。

 何のために大学に行くのかとの問いに対し、「学歴のため」と「みんなが行くから」と答える学生が圧倒的多数を占める日本で、現在の大学のあり方や求められる改革などについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が吉見氏と議論した。

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