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2011年06月11日公開

領土問題と日本の国益

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第530回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
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ゲスト

1943年満州・鞍山生まれ。1966年東京大学法学部中退。同年外務省入省。駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大学校教授などを歴任の後、09年定年退官。著書に「日米同盟の正体」、「日本人のための戦略的思考入門」、「日本人が知らないウィキリークス」、「日本の領土問題」など。

著書

概要

 2010年9月の尖閣沖での中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事件の後、同年11月にロシアのメドヴェージェフ大統領が北方領土を訪問し、先月末には韓国の国会議員3人が国後島を訪問するなど、にわかに日本の領土問題が騒がしくなっている。
 巷では、一昨年9月の政権交代の後、普天間問題などで日米関係が不安定になった間隙をついて、ここぞとばかりに各国が領有権の係争地を押さえにきたとの指摘が多いが、外務省で国際情報局長などを歴任した孫崎享氏は、こうした見方に疑問を呈する。孫崎氏はむしろ話は逆だと言うのだ。
 それは、そもそも北方領土や尖閣問題が拗れた背景にはアメリカの意向があり、今回の尖閣をめぐる一連のできごとも、背後にはアメリカの陰が見え隠れしていると、孫崎氏は分析しているからだ。孫崎氏は、日本政府は日本の国益とは関係なく、もっぱらアメリカ自身の利害得失の計算に基づいて、これまで領土問題に対するスタンスを変更してきたというのだ。そして、そのような無理な立場を正当化するために、政府は領土問題をめぐる二国間の交渉の経緯や国際法上の位置づけなどを、日本の国民に正しく説明してこなかったとも言う。
 まず、孫崎氏は戦後の領土問題を正確に理解するためには、1945年のポツダム宣言から1951年のサンフランシスコ講和条約までの流れを理解する必要があると指摘する。ポツダム宣言第8項には「日本国の主権は本州、北海道、九州、四国及吾等の決定する諸小島に局限せらるべし」と定められ、島の帰属については連合国、とりわけアメリカの意向が重大な影響を持つことが定められている。
 そして、サンフランシスコ講和条約で日本は千島列島を放棄している。これは国後、択捉両島についても当時の吉田茂首相や外務省が歴史的経緯からも千島列島に含まれるとの認識を示しているため、少なくとも国後・択捉の両島は日本が国際社会に復帰するきっかけとなるサンフランシスコ講和条約で、明確に放棄した対象に含まれているのだ。
 ではなぜ北方領土が領土問題になったのか。そこには東西冷戦下でソ連と対峙していたアメリカが、日ソの接近や日本の共産化を懸念し、日ソの平和条約締結を阻止するための工作を行ったからだと孫崎氏は言う。具体的には、1956年日ソ共同宣言を踏まえ、日本が歯舞と色丹の2島返還で平和条約を進もうとした際に、その旨を報告に来た鳩山一郎政権の重光葵外相に対して、アメリカのダレス国務長官が、国後、択捉をソ連に与えるのであれば、われわれも沖縄は返さないと恫喝して、国後、択捉の放棄を断念させたことなどがあげられる。
 日本を東アジアの対ソ拠点とし、基地を持ち続けたいアメリカは、日ソの接近を警戒していた。そして、それを推し進めようとする鳩山首相も嫌っていた。日ソを平和条約締結へと進ませないために、アメリカは沖縄を人質に取ることで、日本に4島返還を要求するよう仕向けたというのだ。
 しかし、1990年代に入ると、アメリカは今度は民主化を進めようとするゴルバチョフやエリツィンを支援するようになり、そのために日本の資金が必要になった。1990年以降、再び北方領土問題が日ソ(日露)間の争点として浮上した背景には、アメリカが、日ソ関係を改善することで日本の資金をロシアの民主化につぎ込ませたいがゆえに、領土問題での縛りを解き放ったことがあった。
 ところが、1956年以降、日本政府、とりわけ自民党政権は、サンフランシスコ講和条約の合意を無視した4島返還要求を正当化するために、北方領土問題で大々的なPRキャンペーンを通じて国民を煽動してきたため、アメリカの都合が変わったからといって、今さら2島返還などと言い出せる状態にはなかった。
 事実上日本の対ソ(対露)外交を規定してきたアメリカの縛りがなくなっても、4島返還という自らが蒔いた種が刈り取れなくなっているのが、現在の北方領土問題の現状だと、孫崎氏は言う。しかも、2000年以降、強硬路線をとるプーチン体制ができあがったため、2島の返還さえ非常に難しくなってしまっている。
 そして、今、日本は尖閣問題でも、同じ過ちを繰り返そうとしていると、孫崎氏は言う。 昨年の尖閣沖の漁船衝突事件への対応を見る限り、アメリカの影響が強く働いていることは明らかだからだ。
 そもそも、尖閣の扱いについては1972年の日中国交正常化の際に田中角栄と周恩来両首相の間で「棚上げ」が合意され、それ以降、一環して両国は尖閣には触れずに二国間関係を強化する路線を歩んできた。これはいわば、アメリカ抜きの平和的枠組だった。しかし、その枠組みをアメリカの意向を強く受けた当時の前原国交相が崩したと、孫崎氏は指摘する。
 「棚上げ」は尖閣を実効支配している日本がそのまま実効支配を続けることになり、日本に有利な取り決めだった。しかし、アメリカは尖閣問題で日中間を緊張させることで、日本が日米同盟の重要性を再認識し、政権交代後のアメリカ離れの流れに歯止めをかけ、基地問題などでも有利な決着を図りたい思惑を持っていたと孫崎氏は分析する。
 孫崎氏はこれを「トリガーインシデント(引き金となる事件)」で外交に影響を及ぼすメイン号、アラモ砦、パールハーバー以来のアメリカ外交の伝統的な手法の一環だったと説明する。
 要するに、日ソ(日露)、日中と言いながら、実際のところはアメリカの手のひらの上で踊らされてきた日本外交ということになるが、しかし孫崎氏は日本人が対米関係で重要な点を見落としていると指摘する。それは、日米安全保障条約があるから、万が一日本がロシアや中国と紛争になれば、必ずアメリカが安保条約を発動して、助けてくれるはずだと思っていることが、実は間違いだということだ。
 その理由はこうだ。まず、日米安保条約はその5条で、日本の施政下にある地域が対象だと書かれている。その意味では北方領土はダメだが、現状では尖閣は対象になる。しかし、同時に2005年の2プラス2(日米安全保障協議委員会)合意で、日本の島嶼防衛は第一義的に自衛隊が担うことが定められている。いったん尖閣で軍事衝突が起きれば、まずは日本の自衛隊が防衛をしなければならない。自力で防衛ができればそれでいい首尾よしとなるわけだが、万が一そこで中国に尖閣を取られれば、その瞬間に尖閣は日本の施政下にはないことになり、日米安保の対象から外されることになる。よって在日米軍は出てこない。要するに、日米安保は尖閣などの島の防衛にはまったく役に立たないということになる。
 しかも、安保条約の第5条は、アメリカが軍事行動をとる前提として、「自国の憲法上の規定及び手続きに従って」との条文を含んでいる。これは、アメリカでは宣戦布告を決定する憲法上の権限が議会にあることから、「議会の承認を得て」と解することができると孫崎氏は言う。しかし、例えばNATO条約ではそのような条件付けは行われていない。この条文は日本が外敵からの攻撃にあった場合でも、アメリカが無条件で軍事参加をするわけではないことを明記していると読むことができると、孫崎氏は指摘する。対ソ(対露)、対中ともにアメリカの言うとおりにやってきても、最後はアメリカが助けてくれない可能性があるということになる。
 戦後日本は、とりわけ領土問題では、アメリカの意向を最大限に尊重することで、国民に正確な情報が提供せずに歪んだ外交政策を継続してきた。それが本当に国益にかなった行為だったかどうかを含め、今こそ真摯な検証が必要だ。
 領土問題の本質と日本の国益について、孫崎氏と考えた。

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