日本のバイオマス発電は本当にエコなのか
地球・人間環境フォーラム企画調査部研究員
1980年大阪府生まれ。2003年関西学院大学総合政策学部卒業。15年龍谷大学大学院政策学研究科修士課程修了。京のアジェンダ21フォーラムでのコーディネーター、認定NPO法人環境市民チーフコーディネーターなどを経て、07年一般社団法人ウータン・森と生活を考える会に参加。13年より現職。ボルネオ保全トラスト・ジャパン理事を兼務。共著に『私たちの電気代が支える偽りの気候変動解決策』など。
インドネシアの森林火災を、遠い国の出来事として聞き流してはいられない。
インドネシアのスマトラ島やカリマンタン(ボルネオ)島で、深刻な森林火災が発生している。森林を焼き尽くす炎と大量の煙は、貴重な熱帯林や野生動物を脅かすだけでなく、周辺地域に暮らす人々の健康や生活にも深刻な影響を及ぼしている。煙に含まれる微小粒子状物質PM2.5による大気汚染は国境を越え、隣のマレーシアやシンガポールにまで学校の休校や交通の混乱も引き起こしている。
森林火災や森林破壊には、私たち日本の消費生活も関係している。普段口にしているお菓子や加工食品に、インドネシアの森林と関係の深い原料が使われているからだ。
NGO「ウータン・森と生活を考える会」事務局長の石崎雄一郎氏によると、繰り返されている大規模な森林火災のほとんどは人為的なものだという。先住民が伝統的に行ってきた焼き畑農業とは異なり、森林開発を進めるために火が放たれるケースがある。さらに、エルニーニョ現象などに伴う乾燥が火災を拡大させる要因となっている。
特に深刻なのが、泥炭地と呼ばれる湿地の森林だ。植物が分解されずに堆積し、大量の炭素を蓄えている泥炭地は、開発のために水路を掘って排水すると乾燥し、燃えやすくなる。ひとたび火がつくと地表だけでなく地下まで燃え広がり、消火したように見えても再び燃え出すことがある。火災によって大量の二酸化炭素が放出されれば気候変動をさらに加速させ、乾燥と火災の悪循環を招きかねない。
森林火災の被害を受けるのは人間だけではない。インドネシアの熱帯林は、オランウータンをはじめとする希少な野生動物の生息地であり、世界的にも生物多様性の豊かな地域だ。森林が焼失し、農園や鉱山などに転換されれば、動物たちは餌場や繁殖の場所を失う。開発によって分断された森では、広い行動範囲を必要とする動物が生き延びることも難しくなる。
日本とインドネシアを密接に結びつけているのが、パーム油だ。アブラヤシの実から採れるパーム油は生産効率が高く、日本ではマーガリンや菓子、カップ麺、洗剤、化粧品など、さまざまな製品に利用され、外食産業でも広く使われている。しかし加工食品の原材料表示には「植物油脂」としか記載されていない場合が多く、消費者がパーム油の使用を見分けるのは容易ではない。
パーム油の需要拡大は、天然林を伐採して大規模な農園を造成する動きと結びついてきた。持続可能なパーム油の生産を目指すRSPO認証などの仕組みもあるが、認証マークがあればすべての問題が解決するわけではない。認証された農園の油とそうでない油が混合される流通形態もあり、最終製品から原料の生産地や環境負荷をたどることが難しい場合もある。消費者が適切に選択するためには、企業による情報開示や、原料の生産から製品に至るまでの透明性を高めることが欠かせない。
一方、現地では森林を守りながら地域の暮らしを支える取り組みも進められている。石崎氏らは、現地の消火活動に必要な資機材や活動資金の支援に加え、エコツーリズムなどを通じて、森林保全と地域住民の収入確保を両立させる方法を模索している。森林を破壊して開発する以外にも、人々が生活を維持できる選択肢を広げることが重要になる。
私たちが日々口にする食品や、手にする日用品。その原料がどこから来て、どのような環境負荷の上に成り立っているのか。消費者が知ることのできる情報を増やし、企業や政府に改善を求めていくことは、遠い国の森林を守るための一歩になるのではないか。
ウータン・森と生活を考える会事務局長の石崎雄一郎氏とともに、環境ジャーナリストの井田徹治とキャスターの新井麻希が議論した。