電力供給の8割を再エネで賄うことは可能だ
自然エネルギー財団シニアマネージャー
1967年東京都生まれ。92年に東京大学教養学部教養学科卒業。同年、東レ入社。94年退社。95年「環境・持続社会」研究センター入所。03年より現職。02年より炭素税研究会コーディネーター、08年より地球温暖化対応のための経済的手法研究会委員を兼務。著書に『環境税―税財政改革と持続可能な福祉社会』。
洞爺湖サミットに向けて発表された「福田ビジョン」で、日本政府は2050年までに温室効果ガスの60~80%削減、排出量取引の試験的導入など、いくつかの踏み込んだ方針を打ち出している。しかし、その中に環境税の文言が含まれていたことはあまり注目されていない。実際には「低炭素化促進の観点から税制全般を横断的に見直す」との遠まわしな表現にとどまってはいるが、首相の口から「環境税」という言葉が語られたことの意義は非常に大きいと、炭素税研究会のコーディネーターとして環境税(欧米では炭素税と呼ばれることが多い)導入を提言してきた足立氏は前向きに評価する。
すでにノルウェーやオランダ、デンマーク、ドイツ、イギリス、スイスなどのほか、アメリカやカナダの一部の州などで導入され、CO2の排出削減に効果を上げている炭素税は、製品のCO2排出量に応じて一定比率の税がかけられるため、生産や販売、輸送、使用の際に排出されるCO2の量が多い製品ほど税額が大きくなり、消費者にとっては割高となる。また、企業も排出量削減に努力をすれば税負担が軽減される上、自社製品の市場での競争力も高まる。つまり、炭素税は一旦導入すれば、市民も企業も経済合理的に行動するだけで、社会全体としてCO2の排出量を削減することが可能となる制度といっていいだろう。
足立氏は、排出量取引が、産業界など大口の排出を抑制する効果が高いのに比べて、炭素税は、個人を含めたあらゆる排出源に対して横断的な効果が期待でき、この2つが同時に実施されることで、さらに効果が高まるという。
一般に炭素税と聞くと、単に税負担が増えることを想像し、敬遠する向きが多いようだが、足立氏は、炭素税の導入イコール増税にする必要はないと説く。欧州で炭素税の導入に成功した国々の多くは、炭素税の導入と同時に既存の税を減税し、税収中立を実現している場合が多い。つまり、納税者全体にとっての税負担は導入前と変わらないが、CO2排出が多い人や企業にとっては増税となり、少ない人や企業にとっては減税となるという。そうすることで、企業活動やライフスタイルの変更を促すことが、炭素税の目的でもある。
このように、一見いいことづくめの炭素税ではあるが、実際には品目ごとのCO2排出量の計算が難しいため、石油や石炭、ガス、電力などエネルギー品目に排出量に応じた課税を行い、その使用量に応じて税負担が増減する形式になっている。そのため、特定の産業、とりわけ重厚長大産業の負担が突出して多くなる傾向がある。また、一般消費者レベルでは、低所得層の負担が相対的に重くなる逆進性も指摘される。すでに制度を導入している国でも、国内産業の国際競争力を維持するために、特定の業界の税率を下げたり、低所得層を免除するなど、苦労の形跡も見てとれる。
しかし、そのようなレベルよりもかなり初歩的な次元で、日本における炭素税導入の道のりがかなり遠いことを、足立氏も認める。京都議定書調印後にドイツやイタリアなどが相次いで炭素税導入を決めた流れを受けて、日本でも04年頃から環境省を中心に環境税の導入が検討されたこともあったが、産業界の強い反対によって頓挫してしまった。
日本では、エネルギーに関連した税が、経産省、国土交通省など複数の官庁にまたがって管轄されているため、それを統合した形になる環境税の導入には、縦割り行政の抵抗がもろにかかってくる。また、税収中立を実現するため必要となる既存税の減税には、財務省が頑として首を縦に振らない。いざ増税となれば、財務省は歓迎するが、今度は選挙を恐れる政治がそれを許さない。しかも、重厚長大産業主導の財界は、そもそも炭素税の議論をすることすら嫌っている。
こうなると政治のリーダーシップに期待するほかなさそうだが、国民のほとんどが環境税イコール増税と認識している中、新税の導入に世論の支持を得るのも、容易ではなさそうだ。いみじくも今週から始まった自民党税調では、消費税増税の是非とその時期をめぐり紛糾している。
サミット前に、「排出量取引」、「再生可能エネルギー」と続けてきた環境シリーズの最終回として、今週は炭素税の意義と実現可能性について、NGOの立場から、炭素税の実現を訴えてきた足立氏とともに考えた。