違憲のハンセン病療養所「特別法廷」判決が揺るがす死刑制度の正当性
弁護士、菊池事件弁護団共同代表
1975年神奈川県生まれ。98年東京大学法学部卒業。96年司法試験合格。97年エリトリアの法律改正委員会に調査員としてボランティア参加。2000年弁護士登録。06年ニューヨーク大学ロースクール修士課程修了。07年ニューヨーク州弁護士資格取得。06年より国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチに参加し、07年より現職。 著書に『“ようこそ”といえる日本へ』。
史上最大規模の五輪を開催するほどの国力を持ちながら、中国はいまだ監視国家としての顔を色濃く持っている。新聞やテレビはおろか、インターネットに至るまで、中国国民が触れることのできる情報源は、例外なく国家の厳しい監視下にあり、コントロールを受けている。また、海外メディアの取材にも、依然として厳しい制約が課せられている。
五輪開催を目前に控えた7月29日、米国のブッシュ大統領は、中国の人権活動家5人と会い「中国の指導者に、人権や宗教の自由は否定されるべきではないという米国の立場をはっきり伝える」と約束をした。この強い言葉の背景には、五輪を機に人権問題が改善されることを期待した国際社会の期待が、裏切られている実情があると、国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗氏は語る。
中国は、五輪を招致するにあたり、繰り返し人権問題の改善を約束してきた。2000年の五輪招致に失敗したのも、人権問題が主要因だったと言われている。しかし、最終的には中国の約束が欧米各国の支持を得て、北京五輪の招致に成功をした。
そして、中国は国際社会との約束を果たすため、「外国人記者に対する暫定規則」を定め、2007年1月1日から08年10月17日までの期間限定ながら、外国人ジャーナリストに自由な取材を保証したはずだった。
しかし、現実には暫定規則が発効してからも、外国メディアへの暴行、威嚇などの妨害行為がやむことはなかった。中国外国特派員協会が把握しているだけで、2007年1月以降、既に180件以上の暴行、監禁、フィルムやデータの没収といった取材妨害が発生しているという。
取材妨害は、反政府活動家たちやその家族、抗議デモなど政府にとって好ましくない題材を取材した場合に留まらない。五輪チケットを購入しようと殺到する市民たちを撮影しただけで暴行を受けたケースもあり、報道の自由を約束した規則は完全に有名無実化していると土井氏は指摘する。
更に厳しい監視下に置かれているのが中国人だ。外国メディアの報道に応じたり、取材に協力しただけで国家機密漏洩罪で投獄されるケースが出ているほか、現在少なくとも26人の中国人ジャーナリストが拘禁されており、それ以上の人々が取材妨害や暴行を受けている。
五輪期間中、世界各国から2万人以上のジャーナリストが中国を訪れることが予想されているが、ヒューマン・ライツ・ウォッチでは、取材対象の中国人たちに被害を及ぼさないために、『北京五輪取材ハンドブック』を作成し、彼らに注意を呼びかけている。さらに、ジャーナリストであれば、中国で活動する際には、電話から、メール、酒場での話まで、常に監視・盗聴される可能性があることを肝に銘じておくべきと土井氏は警告する。
もともと北京五輪は、中国の人権問題を改善する千載一遇のチャンスだった。しかし、そのチャンスを国際オリンピック委員会(IOC)も国際社会も活かすことができなかったと土井氏は残念がる。
オリンピック憲章51条で「報道の自由」は保障されており、IOCがより強硬に人権問題の改善を求めれば、事態が改善される可能性は高かった。にもかかわらず、中国の圧倒的な経済力と国連安保理理事国である政治力を恐れ、多くの国は中国に強い圧力をかけることをためらったと土井氏は批判する。
しかし、土井氏はまだ希望を捨てていないと言う。先のブッシュ大統領のような形でアピールをすることも可能だし、開会式への出席を表明した福田康夫首相の発言にも期待を寄せる。また、いざ五輪が開幕すれば、衆人環視の中で、監視国家中国の実像が浮き彫りになる可能性も高い。
その際に、国際社会がどのような態度を取り、中国政府がどう反応するか、五輪期間中は状況を注視したいと土井氏は語る。
今週は、五輪を目前に控えた中国の人権問題、特に表現の自由と報道の自由について議論をした。翌週は、ドーピング問題を取り上げる予定。