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2014年03月08日公開

原発事故で露呈した、敗戦から何も学んでいなかった日本

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第673回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
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ゲスト

ジャーナリスト・日本再建イニシアチブ理事長

1944年北京市生まれ。68年東京大学教養学部卒業。同年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長などを経て2007年主筆。10年同社を退社。11年より現職。法学博士。慶應義塾大学特別招聘教授を兼務。著書に『原発敗戦』、『カウントダウン・メルトダウン』、『通貨烈烈』など。

著書

概要

 東日本大震災、そして福島第一原子力発電所のメルトダウン事故から3年が経とうとしている。被災地の復興においても日本が抱える様々な病理や課題が次々と露わになっているが、とりわけ原発事故については、事故原因の結論も得られていないし、事故現場の収束さえままならぬ状態であるにもかかわらず、もっぱら原発再稼働の是非に政権の関心が集まるという異常な状態にある。

 福島原発事故独立検証委員会、いわゆる民間事故調のプログラムディレクターとして事故原因の調査に取り組んできた元朝日新聞主筆でジャーナリストの船橋洋一氏は、あの原発事故を太平洋戦争の敗戦に続く「第二の敗戦」と捉え、その原因や再発防止により真剣に取り組む必要があると主張する。

 あの事故は津波によって原発がすべての電源を失ったために、原子炉を冷やすことができなくなり、メルトダウン、メルトスルーに至ったと説明されている。原因がもっぱら津波だったかどうかについては議論があるところだが、いずれにしても万が一の時に原子炉を冷やせるより強固な設備を完備しておけば、今回のような事故は起こらないという前提に立ち、新たな安全基準などが作られている。

 確かにハード面での不備は修正されなければならない。しかし、本当にそれだけでいいのだろうか。今回の事故がここまで甚大な被害をもたらすに至った背景には、単に電源のバックアップに不備があったということではないのではないか。

 実際、全電源喪失に至った後に福島第一発電所や東電本社、そして首相官邸などで起きたことをつぶさに再検証してみると、事故がここまで大きくなった原因は単に電源というハードウエアの問題だけではなく、現場と事故の対応に当たる政府関係者や東電関係者の間の致命的なコミュニケーションミスや、いざというときに取捨選択を決断できるリーダーシップの不在など、数々のヒューマンエラーが介在していたことが明らかである。むしろ、われわれが最も真摯に反省しなければならない点は、ハード面での不備ではなく、日頃からの危機に対する意識や優先順位を決めて損切りを決断するリーダーの養成だったのではないかと、船橋氏は言うのだ。実は同様の問題が、国会事故調の黒川清委員長による英文の最終報告書で指摘されている。

 ところがわれわれの目は、そうした問題にほとんど向いていない。また、実際にそうした反省に立って、対策が取られている形跡も見られない。特に安倍政権は、より厳しい安全基準を設定したのだから、原子力規制委員会の審査にパスした原発は再稼働することが当たり前であるとの立場を取っている。元々、原子力規制委の前身で、今回の事故で全く役立たずの烙印を押された原子力安全・保安院は、1999年のJCO臨界事故の反省を受けて作られた組織のはずだった。それが今回の事故ではまるで機能しなかった。ところが今回もまた、福島原発事故の教訓が十分に活かされないまま、組織の改編と安全基準のマニュアルの変更が行われただけで、事故の反省は終わってしまいそうな様相を呈している。この現状を、われわれはどう受け止めたらいいのだろうか。

 船橋氏は今回の原発事故に、先の大戦での失敗と同じ構造があったと指摘する。原発の過酷事故は直ちに国家的危機となる。その自覚もないまま、安全対策をおろそかにして絶対安全神話なるものに寄りかかり、最後は何とかなるだろうという楽観シナリオに基づいて原発依存に突入した様は、勝算もないままアメリカとの戦争に突入した時といろいろな面で酷似しているというのだ。

 そもそも日本社会には異質なものを排除して、同質の価値観だけで物事を進めていく「空気の支配」という特性があることが指摘されて久しい。それは全体の秩序を維持し、一つの共通の目標に向かって邁進する上では武器となり得るが、何か問題があったときにそれを言い出すことを難しくさせる。それが誰も「撤退」を言い出せない空気が支配する文化を作っている。日本中が安全神話の下で原発推進に邁進する空気の支配の下で誰かが異論を唱えれば、単に排除されるだけだ。原発についても、一部の良識ある関係者の間では危機意識があったが、それを言い出すことができなかったと答えた人が多くいたことが、船橋氏の調査でも明らかになっているという。

 では、福島の事故を無駄にしないために今、われわれに何ができるだろうか。船橋氏は何よりも事故の原因究明をより厳密かつ詳細に行い、事故と事故対応における失敗の責任の所在を明らかにすることが何よりも重要だと主張する。そこを曖昧にしたまま組織や仕組みをいじってみても、本当の意味で事故の教訓が活かされることはあり得ない。そして、それはわれわれが第三の敗戦に向けて邁進する道を選んだことを意味する。

 われわれはなぜあれだけ酷い目にあっても、その原因と真摯に向き合い反省することができないのか。東日本大震災、福島原発事故から3年が経過したいま、事故に至る経過と事故への対応、そして事故後の原因究明や新たに作成された安全基準などから見えてくるわれわれ日本人の弱点について、先の戦争の反省と絡めながら、ゲストの船橋洋一氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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