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2019年3月9日
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原発被災地の現状を正しく知るために

河田昌東氏(分子生物学者)
マル激トーク・オン・ディマンド 第935回(2019年3月9日)

 東日本大震災と未曾有の原発事故から8年。

 福島第一原子力発電所では今も懸命の作業が続くが、廃炉への道筋は遅々としており、除染土の処分の見通しもたっていない。原発敷地内は処理水の貯蔵タンクですし詰め状態になってきており、被災地は依然として復興からほど遠い状況にある。原発事故から避難している人の数は、県外・県内避難を合わせて4万人を超えている。

 避難者の帰還の最大の障害となっている放射能汚染の現状はどうなっているのか。

 2011年4月から南相馬に通い、自らがはじめたNPO法人の仲間や地元の人たちと一緒に、2011年6月から年に2回、空間線量の測定を続けている分子生物学者の河田昌東氏は、空間線量は当初の予想以上に下がっているという。

 500メートルメッシュで測定された線量マップの経年変化をみれば、線量の低下は一目瞭然だ。空間線量に影響を与えている放射性セシウムのうち福島原発事故の場合半数を占めるセシウム134の半減期が2年であることや雨が多く地表面のセシウムが流されていることなどが、線量の低下をもたらしていると考えられるという。

 一方、出続ける汚染水の処理については、重要な局面にきているという。このままでは原発の敷地が汚染水の貯蔵タンクでいっぱいになってしまうのは時間の問題で、かといって原発の敷地内から汚染水を外に出すことも許されない。東京電力はできる限り汚染物質を取り除いた上で、地元の理解を得て海に流すことを想定しているようだ。しかし、同位体元素のトリチウムだけは、性質が水と同じなこともあり、現在の技術では分離することが難しい。しかし、トリチウムは体内に入るとDNAに直接影響を与えるため、安易に海に流してはいけないと河田氏はいう。

 河田氏のグループは、土壌の汚染マップの作成や、南相馬市内に開設した放射能測定センターに住民が持ち込んだ農産物や土壌を無償で測定し続けてきた。その結果、様々な知見が集まっている。事故前の状況に戻ることは難しいという現実を前に、住民たちは食べ物や土壌を測定しながら、自分たちで判断して暮らしている。河田氏がチェルノブイリ支援で探り当てた植物による除染や、油にはセシウムが移行しないという科学的事実から、菜種の栽培などにも取り組んでいる。

 だからこそ、きちんと事実に目を向けてこなかった政府や専門家を含む社会の姿勢に、河田氏は危惧を覚えている。

 東大名誉教授らが個人被ばく量と空間線量について英科学誌に発表した論文が、去年暮れに撤回された問題についても、住民の同意がないデータが使われていたという倫理的な課題だけでなく、単純な計算ミスのほか、手法などに技術的な問題があると河田氏は指摘する。科学的データがほとんどないなか、こうした態度では、放射能汚染による影響を過小評価したいという政治的な意図が入り込んでいるという疑念が拭いきれない。

 原発被災地の現状を正しく知り、未知なことに向き合う科学的な態度とはどういうことなのか、福島支援を続けてきた科学者である河田昌東氏と、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。

 
河田 昌東(かわた まさはる)
分子生物学者
1940年秋田県生まれ。63年東京教育大学(現筑波大学)理学部卒業。68年名古屋大学理学部分子生物学研究施設大学院博士課程修了(分子生物学)。69年同研究施設助手、名古屋大学理学部大学院生命理学科助手を経て、2004年定年退職。1990年よりNPO法人チェルノブイリ救援・中部理事。遺伝子組換え情報室代表を兼務。著書に『チェルノブイリと福島』、共著に『チェルノブイリの菜の花畑からー放射能汚染下の地域復興』。

 

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