脱アベノミクスを掲げる石破政権に経済政策の決め手はあるか
第一生命経済研究所首席エコノミスト
1959年福井県生まれ。84年早稲田大学政治経済学部卒。91年大阪大学経済学研究科博士課程単位取得退学。名古屋市立大学助教授、教授などを経て2003年より現職。経済学博士。著書に『経済を動かす単純な論理』『金融立国試論』など。
自民党は20日、参院選に向けた公約集を発表したが、看板のアベノミクスの実績を最前面に打ち出しているのが目につく内容となっている。
確かに安倍政権の誕生後、日経平均株価は約36%、ドル円相場も約13%の円安が実現し、日本経済は11年ぶりに復活の兆しを見せている。慶応大学教授で金融・財政論が専門の櫻川昌哉氏は「偶然の要因にも恵まれたが、アベノミクスの滑り出しは上々だ」と、ひとまずアベノミクスは市場の期待感を醸成することには成功していると分析する。
しかし、アベノミクスの最終的な評価を下すのはまだ時期尚早だと、櫻川氏は言う。ここまでは安倍政権並びにその意向を受けた黒田日銀による金融緩和への強い決意を、市場は歓迎したように見える。しかし、櫻川氏はアベノミクスの真価は二本目の矢である「財政政策」、第三の矢である「成長戦略」によって決まると言う。本来、大胆な金融緩和に対しては強い財政規律が求められるが、今週発表になった自民党の選挙公約や先の13兆の補正予算に見られるように、安倍政権は金融緩和とセットで積極的な財政出動の政策路線を選択しているように見える。「日銀による大幅な金融緩和策と積極的な財政出動というポリシーミックスでは、どのみちバブルが起きるだろう」と櫻川氏は指摘する。
櫻川氏はアベノミクスの成否を握るカギは、金融緩和によって市中に投入された資金が、銀行を通じて企業の設備投資などに回るかどうかだという。「いまの日本の銀行には土地担保融資以外の資金投資のノウハウはない」ため、銀行融資による資金調達には限界がある。むしろ今日本が改革すべきは、株式市場を通じて資金が回るような仕組みを整備することだというのだ。
海外では銀行融資よりもファンドによる直接投資が盛んだ。担保と引き替えにお金を貸す銀行の融資と比べて、ファンドマネージャーたちは資金を投入するだけではなく、豊富なノウハウを元に投資先企業にコンサルティングを行い、経営の効率化を求める。邦銀にはここまでの機能も能力もない。しかし、その一方で日本の企業はファンドそのものを嫌悪し、社外の者から経営に口出しされることも好まない風土が根強い。相も変わらず日本中が、同じ日に株主総会を開くようなことをまだやっている。株式市場改革や金融市場を改革することで、アベノミクスによって市中に投入された資金が、成長を促す方向に回っていくことが必要だが、政治の世界でもメディアでもそういう提案はほとんど聞かれない。結局最後は政府や政治の問題ではなく、民間企業がこれをどう活かすかに掛かっていると言ってもいいだろう。
90年代のバブル崩壊以来、日本の金融システムと企業風土はほとんど変わっていない。変えようとする試みが何度かあったが、そのたびに日本の大手企業や大手マスコミはそれを批判し排除してきた。中には株主の権利を主張する投資家が、「国策捜査」の標的にされることもあった。日本のその部分が変わらないままでは、どんな経済政策を採用しても、最終的にはそれが成長を生み出す方向に作用することは難しいだろうと櫻川氏は言う。
アベノミクスの効果はどこまで持続するのか。大幅金融緩和と積極財政運営の行き着く先はどこか。日本経済、長期停滞の要因はどこにあるのか。日本の経済政策の検証や経済学者による論争の背景、経済学が持つ特異性などについて、ゲストの櫻川昌哉氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。