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2018年05月05日公開

われわれが「匂い」をとても気にするようになった訳とその功罪

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第891回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
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ゲスト

東海大学先進生命科学研究所長・特任教授
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1948年茨城県生まれ。72年横浜市立大学理学部卒業。75年東京工業大学大学院博士課程中退(理学博士)。協和醗酵工業東京研究所主任研究員、ロンドン大学博士研究員、東海大学開発工学部生物工学科教授、同大学医学部基礎医学系教授などを経て2016年より現職。著書に『分子レベルで見た体のはたらき』、『「香り」の科学―匂いの正体からその効能まで』など。

著書

概要

 人類と「香り」の付き合いは決して新しいものではない。古くは3000年以上も前のエジプトで、ミイラ作りのために防腐効果のある種々の香料が使われていたことがわかっている。聖書にはイエス・キリストの誕生を祝福するために東方からやってきた3人の博士が、乳香(にゅうこう)と没薬(もつやく)などの香料を捧げ物として持参したことが記されている。

 このように人類が太古の時代から様々な形で活用してきた香料ではあるが、匂いは遺跡や土器や絵画、文字のような「もの」としての形を残さないため、その実態を検証することが困難だったこともあり、人類史研究の中ではそれほど主要な地位を占めてこなかった。また、他の動物に対して高度に視覚が発達した人類にとって、嗅覚は必ずしも生存する上で決定的な重要性を持っていなかったこともあり、他の5感の中でも視覚や聴覚などと比べて嗅覚に関する科学的研究は大きく遅れをとってきた。

 しかし、近代に入り人間の嗅覚の仕組みや匂いが脳に伝わるメカニズムが解明されると同時に、19世紀になって有機化学が急速に発展したことで、香料の世界が大きく拡がった。当初は主に香水や化粧品に利用されていた香料が近年、加工食品はもとよりトイレの芳香剤や洗濯時の柔軟剤など生活の隅々にまで浸透するようになっている。

 元来、香料というものはほとんどが植物から抽出した天然由来のものだったが、植物から香料成分を取り出す作業は手間も時間もかかる。そこで今日、香料の元となる物質は、人工的に作られた化学物質が代替するようなっている。どのような化学物質をどんな割合で調合すれば、人間はそれを何の匂いと認識するかについてのノウハウも、かなり高度なレベルまで判明しているのだそうだ。

 嗅覚は視覚や聴覚などとは異なり、大脳新皮質を経ずに、記憶を支配する海馬領域や感情を支配する扁桃体に直接伝わるという特質を持っている。何かが匂ってきた時、それが何かを頭であれこれ論理的に考えて理解する間もなく、鼻の穴から入ってきた匂いの元となる化学物質の「匂い」情報はたちどころに脳に直接届く。そのため、ある匂いを嗅いだ瞬間に、その匂いとセットになっていた記憶が蘇る「フラッシュバック」のような症状を示すことがある。

 匂いはその特性故に、特定の香りを嗅ぐだけでリラックス効果を得たり、気分を明るくするなど様々な効果が期待できるなど、医療分野やQOL向上に今後も「香り」が果たす役割は大きくなっている。認知症やアルツハイマー病の症状の改善にも香りを使った治療が効果を上げているという報告もある。

 しかし、その一方で、特に近年、洗濯の柔軟剤などに強い芳香剤が使われているものが人気を博するようになった結果、その匂いを不快に感じる人が増えている。いわゆる「スメハラ」(スメル・ハラスメント=匂いで相手を不快にさせる行為)という言葉や、化学物質に敏感な人が芳香剤の匂いによって様々なアレルギー反応に苦しむような「香害」の事例が相次いで報告されている。特に、化学物質過敏症や特定の香料の原料にアレルギー反応を示す人々にとって、学校の教室や職場などの狭い空間や、飛行機や電車など乗り物のような密閉されて逃げ場のない空間の中で、近くに強い香りを発する香水や化粧品、柔軟剤などを着けた人と隣り合わせになることは、単なる苦痛を超えた死活問題となる。

 食品と違い芳香剤は一見、物質を体の中に入れているようには見えないが、香りの元となっている「化学物質」が鼻から体内に取り込まれていることに変わりはない。科学物質の中には天然由来か人工的に作られた物かにかかわりなく、アレルギー反応を起こすものもあるし、これまで無害と考えられてきた物質の中にも、後に有害性が判明するものが出てくる可能性も十分にある。

 「香り」の科学に詳しい東海大学先進生命科学研究所の平山令明特任教授は、日本人は元々、遺伝子的に体臭が少ない人種に属するため、欧米人に比べて匂いに対する耐性が低い傾向にあるという。その日本で欧米並みに強い匂いを放つ柔軟剤や洗剤や化粧品などが普及すれば、匂いに敏感な人々の間に公害の被害が出ることは当然予想できることだ。しかし、現状では匂いについては、業界が独自に定めた自主基準しか存在しない。食品並の成分表示義務もないため、表示を見てアレルギー物質を避けることも難しいのが実情だ。

 匂いについてはまだわからないことも多いので、常にその影響を注視しながら、問題があれば改善をしていく姿勢が必要だと平山氏は語る。

 それしても、なぜわれわれはここに来て急に、匂いを気にするようになったのだろうか。匂いの効果を最大限に利用しつつ、その弊害を最小化するためには、どのような制度が求められるのか。消費者としてわれわれは何を意識しなければならないかなどを、平山氏とジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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