この戦争観はアメリカに押しつけられたものだったのか、日本人が自ら選んだものだったのか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1010回)

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公開日 2020年08月15日

ゲスト

早稲田大学社会科学総合学術院教授

1953年青森県生まれ。77年早稲田大学第一文学部卒業。80年東北大学大学院文学研究科修了。84年同大学院英文学専攻博士課程単位取得満期退学。専門は公文書研究。東北大学大学院国際文化研究科助教授、早稲田大学社会科学部助教授などを経て99年より現職。著書に『日本人はなぜ自虐的になったのか―占領とWGIP―』、『原爆 私たちは何も知らなかった』など。

著書

概要

 毎年この時期になると、先の戦争についてメデイア上で様々な特集が組まれる。特に今年は終戦75周年ということもあり、テレビは映画を含め普段よりも多くの関連番組を放送しているようだ。

 しかし、公文書研究を続けてきた早稲田大学教授の有馬哲夫氏と話をすると、戦争や原爆についてこんなにも多くの情報が溢れているにもかかわらず、われわれが本当に重要な情報をことごとく知らされていないことを痛感させられる。そして、そのかなりの部分が、残念ながら意図的にそうなるように仕向けられているようなのだ。

 中でもなぜアメリカが広島と長崎に原爆を落とさなければならなかったのかという疑問については、日本は被害当事国でありながら、一番重要な点がほとんど問題にされていないように思える。

 一般的にはアメリカは日本に降伏を促し戦争を一刻も早く終結させるために、やむなく原爆の使用に踏み切ったという説明が日本でもアメリカでも広く信じられているようだ。 そうすることで両国の戦争の犠牲者を最小限に抑えることが目的だったというのが、それを正当化する理由となる。

 しかし、その説はとうの昔に否定されていて、アメリカでもABCテレビがその説を覆すドキュメンタリーを放送しているほどだ。実際に有馬氏が公文書を調べた結果、1945年7月16日に世界初の原爆実験に成功したアメリカは既に同年7月24日の時点で、トルーマン大統領がスティムソン陸軍長官に日本に対する原爆の使用を指示しているが、アメリカは同日にポツダム宣言から皇室維持条項の削除を決めている。皇室維持条項を削除した無条件降伏を日本が決して受け入れないことを熟知していたトルーマンは、原爆の使用を指示した上で、あえて日本が絶対に受け入れられない降伏条件を提示したことになる。それはトルーマンが、ソ連を牽制するために、何が何でも日本に対して原爆を使いたかったからだと有馬氏は言う。当時東欧に勢力圏を拡げていたソ連を牽制するためにアメリカが原爆の威力を示威したがっていたことは、多くの公文書によって裏付けられていると有馬氏は指摘する。

 しかも、アメリカは原爆の威力を「見える化」するためにあえてこれまで空襲で破壊していない都市を選び、その都市への空襲を控えた上で、人的な被害を最大化させるためにあえて無警告で原爆を落とすという惨い選択をしていた。その際に原爆の圧倒的な破壊力を見せつけたかった相手が、日本だけでなくソ連も含まれていたことは言うまでもない。

 単に威力を見せつけることが目的なら、アメリカは原爆を無人島に落とすこともできた。また、仮に破壊力を見せつけるために都市に落とすにしても、せめて事前に警告をすることで、市民を避難させることもできたはずだ。それをあえて35万人都市の広島と27万人都市の長崎に無警告で核兵器を使用し20万人以上の民間人を殺傷するという行為は、いかなる理由があろうとも正当化されるはずがない。

 そのためアメリカが日本の占領に際して当初から積極的に実施したのが、WGIP(War Guilt Information Program=戦争責任広報計画)と呼ばれる広報政策だった。広報政策といっても、占領軍が軍事力を背景に日本中のあらゆるメディアを掌握して実施する情報統制なので、早い話が力によるプロバガンダ以外の何物でもない。

 アメリカは特に原爆と東京裁判に対してWGIPをフルに使い、日本人に対する情報操作を徹底させた。逆の見方をすれば、その2つは常識ではどうにも正当化できないことを知っていたことになる。その結果、日頃の新聞・ラジオ報道はもとより、多くの映画やニュース映画がWGIPの監督の下に作成され、それが日本人の戦争観に決定的な影響を与えた。

 WGIPはGHQによる7年間の統治の間に実行されたものだが、その間に形成された日本人の思考回路や教育を含むさまざまな制度、マスコミのマインドセット(物事を考える基本的な姿勢)などは占領が終わった後も日本人の原爆や東京裁判のみならず、先の大戦に対する考え方に大きな影響を与え続けたと考えられると有馬氏は指摘する。

 今日の日本人の戦争観や歴史観が、実際にどの程度のWGIPの影響を受けているかを正確に推し量ることは難しい。しかし、WGIPがどれほど優れた洗脳プログラムであったとしても、7年間の検閲情報統制だけで一国一億の国民の戦争観や歴史観を完全に塗り替えることなどできようはずもない。そこには何か日本側にもWGIP的な歴史の上書きを容易に受け入れてしまう、あるいはそれを待ち望んでいた何かがあったとしか思えない。

 だとすれば、まずはWGIPの実態を知りその効果を検証すると同時に、それをいとも簡単に受け入れ、その効果を倍増、三倍増させてしまう日本側の要因についても考えておく必要があるだろう。そして原因がWGIPであろうが何であろうが、75年経った今日まで向き合ってこなかった様々な不都合な歴史の真実についても、あらためて向き合う必要があるのではないか。

 75回目の終戦記念日を迎える今回は、原爆投下に際してアメリカにはどのような選択肢があり、なぜアメリカはそれでもどうしても原爆を落とさなければならなかったのか、その歴史の汚点を書き換えるためにアメリカが行ったWGIPとはどのようなものだったのか、特に原爆について被害当時国の日本、そして日本人がWGIPの情報操作をいとも簡単に受け入れてしまったのはなぜだったのかなどについて、公文書研究者の有馬氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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