参院選で示された民意は正しく理解されているか
慶應義塾大学名誉教授
1954年東京都生まれ。77年慶応大学法学部卒業、82年同大学院法学研究科博士課程修了。法学博士。ミシガン大学客員助教授、プリンストン大学、カリフォルニア大学バークレー校研究員、慶応大学法学部助教授などを経て、91年より慶応大学法学部教授。2011年より現職。専門は計量政治学。著書に『政権交代〜民主党政権とは何であったのか』、『制度改革以降の日本型民主主義』、『選挙・投票行動』など。
確かに自民党はどの党よりも多くの票を得た。そして有権者は明確に民主党にはノーを突きつけた。
しかし、それにしても約300議席である。今回の衆院選において小選挙区で43%、比例区で27%の票を得た自民党が、小選挙区で議席率79%にあたる237議席を、比例区と合わせて全体の61%にあたる294議席を獲得した。今回の選挙で自民党が比例区で得た1662万票は、惨敗した前回の衆院選での1881万票よりも約220万票も少なかったにもかかわらずだ。
これを自民党との選挙協力でボーナスポイントがついた公明党と合わせると、小選挙区では44%の得票に対して82%の議席が、比例では39%の得票に対して44%の議席が割り当てられ、全体では67.81%の議席を自公で獲得している。自公合わせて4割前後の得票だったのに対し、議席は衆院の3分の2を超えてしまった。
選挙制度に詳しい計量政治学者の小林良彰慶応大学客員教授は、今回の選挙は民主党に対する「失望投票」だったと分析した上で、しかし同時に、現行の選挙制度の欠陥が顕著に議席配分に反映された選挙だったと指摘する。
もともと小選挙区は、民意が劇的に反映される特徴を持っている。そして、小選挙区制は2大政党制を生み出すとの仮説を元に、50.1%対49.9%でも勝った方に一議席のみが与えられるため、最大で49.99%の死票が出ることは覚悟しなければならないと説明されていた。ところが政治の世界は二大政党制に向かわないばかりか、今回は12もの政党が乱立しての選挙となった。結果的に3割程度の得票でも当選する人が続出した。これはその選挙区では7割が死票となったことになる。投票率を考慮に入れると、選挙区有権者の2割足らずの支持で当選した議員がいる計算になる。
そうした背景を知ってか知らずか、獲得議席数だけを見れば地滑り的勝利にもかかわらず、自民党の安倍総裁は「自民党が積極的に支持されたわけではない」と繰り返し述べるなどして、党内を戒めている。獲得議席数だけを見て浮かれていると、民主党の二の舞になると言わんばかりだ。
しかし、それにしても死票が7割も出る制度が正当化できるはずがない。小林氏は6回やっても二大政党制にならないのだから、そろそろその幻想は捨てて、新たな選挙制度を模索すべきだとして、具体的には「定数自動決定式比例代表制」なる新たな選挙制度を提案している。
また、今回の選挙では、歴史に残る大きな原発事故後の最初の選挙であったにもかかわらず、原発が大きな争点にはならなかった。小林氏は脱原発を望む人の数が過半数を超えていたとしても、有権者の関心がより直近の課題である景気や雇用問題に向いていたために、今回の選挙では原発政策は投票行動を左右する決定的な要因にはならなかったと分析する。それは被災した東北地方や福島を含む原発立地県において、自民党が万遍なく得票を伸ばしたことを見ても明らかだ。
今回の投票行動を地域別、年齢別、ジェンダー別などで分析した小林良彰氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司がこの選挙の持つ意味を議論した。