日本が東アジアの貧乏小国に堕ちるのを防ぐための唯一の処方箋はこれだ
小西美術工藝社社長
2012年は1年を通じて世界の主要国で国政選挙があり、多くの国で政権交代や首脳の交代が起きるなど、国際政治の舞台では大きな変革の年となった。
フランスでは新自由主義路線のサルコジが敗れ社会党のオーランド政権が成立。ロシアではプーチンの権力専横に国民は承認を与えた。中国では習近平が、韓国では初の女性大統領となる朴槿恵政権が誕生し、アメリカではオバマ大統領が辛くも再選を果たした。
そして日本でも年末の総選挙で民主党が惨敗、自民党が3年ぶりに政権の座に返り咲くなど、確かに政治的には出入りの激しい一年となった。
しかし、多くの国で指導者や体制が変わった割には、大きな政策や路線変更があったという話はあまり聞こえてこない。政権や体制が変わっても、各国ともに経済停滞と財政難に喘ぐなか、政策的な選択肢が細っているようだ。
日本でも安倍新首相が唱える金融緩和を中心とする「アベノミクス」に内外の関心が集まっているが、少子高齢化とそれを支える社会保障の立て直し、そしてそれと表裏一体の関係にある財政再建が喫緊の課題であることに変わりはない。また、東日本大震災の被災地の復興の遅れや、福島第一原発の事故の処理も、待ったなしの状態が続いている。
安倍政権の誕生に道を開いた先の総選挙では、有権者の関心は目先の景気や雇用の問題に集中し、原発、財政再建などの大きな問題は二の次だったことが、メディアの出口調査などで明らかになっている。
われわれ有権者は目先の問題にしか関心を持てないのか。長期的には損であっても、短期的に得になる選択をしてしまうのは、やむを得ないことなのか。
泣いても笑っても日本はこれから未曾有の超高齢化社会に突入する。産業構造も社会構造ももはや右肩上がりの高度経済成長モデルが通用しなくなっていることは明らかだ。大きな構造の転換を図らなければこの難局を乗り越えられないことがわかっていても、日本はなかなか変わることができないでいる。選挙では現状維持を望む高齢層の人口が若年層の倍近くもあり、しかもその世代は投票率も高いため、選挙力学上は政治が高齢層の既得権益に切り込むことは容易ではない。マスメディアも本質的な問題には一向に切り込もうとしない。読者や視聴者にとって耳の痛い話は、スポンサーも歓迎しないし、視聴率や売り上げにも貢献しないからだ。
問題の所在が明らかで、その処方箋もあるが、痛みが伴う改革ができないことは、世界の他の国々も似たり寄ったりかもしれない。もしかするとこれは民主主義の宿命、あるいは大きな欠点なのかもしれない。しかし、日本は世界に先駆けてその状態に突入し、それがもう20年以上も続いている。この「日本病」をわれわれはどうすれば克服できるのか。これは日本から少し遅れて同じような病に感染しつつある世界各国が注目しているところでもある。
そこで、恒例となった今年の年末マル激ライブでは、日本病の背後にある構造とその克服のためにわれわれ一人ひとりが何を考えなければならないかを、神保哲生と宮台真司が議論した。(今週はニュース・コメンタリーはお休みします。)