日本の再エネはなぜ増えないのか
環境エネルギー政策研究所所長
1959年山口県生まれ。83年京都大学工学部卒業。同年神戸製鋼所入社。電力中央研究所勤務を経て96年東京大学大学院先端科学技術センター博士課程単位取得退学。2000年NPO法人環境エネルギー政策研究所を設立し、現職。著書に『北欧のエネルギーデモクラシー』、共著に『コミュニティパワー エネルギーで地域を豊かにする』など。
「低炭素革命で世界をリードする」。10日、麻生首相が、日本の温室効果ガスの2020年までの削減目標を05年比で15%減とすることを発表した。麻生首相はこれが野心的な目標と考えたと見えて、「野心的」、「決断」などの言葉を連発したが、世界からは冷ややかな反応しか返ってこなかった。ちょうど国連気候変動枠組み条約の特別作業部会が開かれているボンでは、麻生首相を先のブッシュ大統領に擬した似顔絵とともに、世界の潮流から大きくずれた日本の削減目標を批判するコメントが相次いで出された。
省エネ世界一などと喧伝している日本だが、実は1990年と比較して温室効果ガスが9.2%も増加している。そのため、「05年比15%削減」を、1990年の排出量と比較した数値にすると「8%削減」としかならない。京都議定書の削減義務は、2013年までに90年比6%削減なので、今回の中期目標はその後8年をかけてもう2%だけ削減する意思を表明したにすぎない。ちなみにIPCCは、地球温暖化を抑えるためには2050年までに世界全体のCO2排出量を1990年比で半減する必要があり、そのためには先進国は2020年までに25〜40%削減しなければならないと試算している。40%削減に対して、日本は8%は余りにもかけ離れた数字だった。
地球温暖化問題に長年取り組んでいるNGO環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也氏は、今回発表された数字は、「嘘で塗り固めた不作為」であると酷評する。そもそも政府もメディアも05年比の数字を発表しているが、国際的な中期目標は1990年の排出量を基準に決められている。削減努力を「何もやってきていない日本」(飯田氏)にとって、05年比にした方が目標の低さを誤魔化しやすいため、恣意的な数字を出しているに過ぎない。
しかし、日本の目標がアメリカやEUと比べて遙かに深刻なことは、単にその数値が低いことではないと飯田氏は言う。日本は「ただの数字遊びをしているだけで、削減するための具体的な政策が何もない」ことが、最大の問題だと言うのだ。
麻生首相は、日本の目標はアメリカの目標値を上回っていると胸を張った。確かにアメリカはブッシュ大統領が京都議定書から離脱して以降、温室効果ガス削減の努力を何もしてこなかったために、数値的には低い目標しか掲げられていない。しかし、オバマ大統領が就任して以来、アメリカは矢継ぎ早にグリーン・ニューディールと呼ばれる施策を打ち、一気に遅れを取り戻している。既にGDPの0.5%を投入するグリーン景気刺激策を09年2月に成立させているほか、再生可能エネルギーの買い取り義務付けやスマート・グリッドなどを盛り込んだ600ページにも及ぶワックスマン・マーキー法が4月に議会に提出されている。
飯田氏は、アメリカが目標値を実現する具体的な手段を持っているのに対し、日本は政策手段も道筋もないまま、数字だけ出しているに過ぎないと指摘する。言うまでもないが、EUは既に排出量取引市場を創設し、ドイツやスペインを筆頭に、再生可能エネルギーでは世界のトップをひた走っている。どうやら、日本はグリーン革命で完全に世界から取り残されてしまったようだ。
なぜ、日本はグリーン革命に踏み切ることができないのか。飯田氏は、経済界に地球温暖化についての共通認識がなく、政治もイニシアチブを取れていないことに、原因は尽きると言い切る。特に、発電から送電までを独占し続ける日本の電力会社は、原子力にしがみついたまま、世界のダイナミックな変化に全く対応できていないというのだ。
しかし、それよりも更に重大な問題を日本は抱えていると飯田氏は言う。それは、日本がEU諸国やオバマ政権のように、世界の最先端で提案された知的蓄積を、自国の政策に活かす仕組みを持っていないことだ。官僚が省益だけを考え、独占企業が自分達の利益だけを考えて、政策を主張する。日本の政策はそれをつぎはぎにしたものでしかないため、国際的な知の蓄積が全く反映されないというのだ。
世界がグリーン革命に向けて猛スピードで走り始める中、日本はどこまで取り残されてしまったのか。遅れを取り戻すための処方箋はあるのか。飯田氏とともに議論した。