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2018年04月14日公開

観察映画に描かれた日本とアメリカの今とこれから

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第888回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
(終了しました)

ゲスト

1970年栃木県生まれ。93年東京大学文学部卒業。97年米国スクール・オブ・ビジュアル・アーツ卒業。監督作品に『選挙』、『精神』、『Peace』、『牡蠣工場』、『港町』など。著書に『精神病とモザイク』、『日本人は民主主義を捨てたがっているのか?』、『カメラを持て、町へ出よう』など。

著書

概要

 「観察映画」というジャンルがあるのをご存じだろうか。

 実在する人物が登場するという意味ではドキュメンタリー映画の一種だが、通常のドキュメンタリーと異なり、「事前のリサーチなし」「打ち合わせなし」「台本なし」のないないづくしに加え、撮影や編集も監督自身が一人で行うというのが、「観察映画」の基本だという。

 この独特の手法で『選挙』、『精神』、『Peace』、『牡蠣工場』などの作品を世に問うてきたのが、ニューヨーク在住の映画監督、想田和弘氏だ。

 6月9日に日本で公開予定の『ザ・ビッグハウス』は想田監督の最新作で、アメリカの大学のフットボールを扱った作品だ。タイトルの『ザ・ビッグハウス』というのは、多くのスポーツの分野で全米屈指のリーグを形成している「ビッグ10」の強豪ミシガン大学が本拠を置くフットボール場『ミシガン・スタジアム』の愛称だ。

 アメリカン・フットボールを取り上げた作品ではあるが、『ザ・ビッグハウス』にはフットボールの試合は全くと言っていいほど出てこない。この映画は毎週10万人を超える観衆が集まるこのスタジアムで何が繰り広げられているかを、17台のカメラでスタジアムの隅々まで徹底的に追いかけ、記録している。そこには、準備に追われる警備員や夥しい量の食材を扱う厨房、出番まで待機する何百人ものマーチング・バンドやチアリーダーたちの舞台裏の緊張した表情、試合で傷ついたヘルメットの一つひとつにペイントを塗り直すロッカールームの裏方などなど、フットボールの試合以外の全てが記録されている。

 トランプ大統領を生んだ2016年大統領選挙の直前となる10月末に撮影されたこの作品には、地元の大学のフットボールチームの成績に一喜一憂する人々が無数に登場する。彼らは一見、トランプの躍進に揺れる激動の政治情勢やその背景にあるアメリカの深刻な問題とは無縁の存在のように見える。しかし、一つひとつの場面をより注意深く「観察」してみると、そこには人種問題や貧富の差、飲酒問題、現状に不満を持つ白人層の存在などが、しっかりと捉えられている。そもそも大統領選挙直前のこの時期に、市の人口を上回る数の人が、全身全霊を懸けて大学フットボールに熱狂している様は、アメリカの地方都市特有の豊かさと同時に、アメリカの病理を反映していると見ることができる。

 一方、現在公開中の『港町』は、想田氏自身が岡山県の小さな漁村に泊まり込みながら、その地の人々との触れ合いを描いた作品だ。全てがスーパーサイズだった『ザ・ビッグハウス』とは対照的に、過疎の村でゆっくりとした時間が流れる。これもまた、よく観察眼を凝らして映像を見ると、一見、過疎の村の素朴な人々との触れ合いを描いているように見えて、そこには崩れゆく日本の伝統的な共同体の様や、長い時間をかけて形成された生産(漁業)と生活の持続可能なサイクルの崩壊が、見事なまでに映し出されている。

 一つひとつのカットが長く、ナレーションもテロップ(字幕)もBGMもない想田氏の観察映画は、制作者側の視点や価値観を押しつけてはこない。しかし、その映像は否が応にも見る者に多くのことを考えさせる。

 「選挙」、「牡蠣工場」などの観察映画で知られる想田氏が『ザ・ビッグハウス』『港町』を通じて描こうとしたものは何だったのか。観察映画の制作者の目には、現在のアメリカや日本の政治・社会状況はどのように映っているのか。ニューヨークから一時帰国中の想田氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が、想田映画に描かれた日本とアメリカの現状と未来について議論した。

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