「地球沸騰」が始まった世界でわれわれが今すべきこととは
東京大学未来ビジョン研究センター教授、国立環境研究所地球システム領域上級主席研究員
1970年神奈川県生まれ。92年東京大学教養学部卒業。97年同大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。同年、国立環境研究所入所。地球環境研究センター温暖化リスク評価研究室長などを経て、2018年より現職。16年より社会対話・協働推進オフィス代表を兼務。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次、第6次評価報告書主執筆者。著書に『異常気象と人類の選択』、『地球温暖化の予測は「正しい」か?』、共著に『温暖化論のホンネ – 「脅威論」と「懐疑論」を超えて』など。
地球温暖化による気候変動が、遂に世界的に災害を引き起こし始めた。
元々地球温暖化は激しい気候変動を繰り返しながら、徐々に気温が上がっていく現象だが、平均気温の上昇以前に、熱波や大雨、干ばつなどの異常気象が地球の方々で実害を生み始めている。
日本でも7月23日に埼玉県熊谷市で国内の最高気温となる41.1度を記録するなど未曾有の猛暑が続き、熱中症により、7月は過去最多となる5万4220人が救急搬送され、うち133人が死亡している。かと思えば、西日本豪雨ではこれまた観測史上例のない規模の集中豪雨で多くの河川が氾濫し、200人を超える犠牲者を出した。この夏の天気予報は、猛暑による熱中症か大雨による災害への注意が喚起されていない日が珍しいと言っても過言ではないほどで、遂に異常気象が正常になってしまったようだ。
異常気象は世界的な現象で、この夏、ヨーロッパやアメリカでは熱波で死者が出たり、方々で森林火災が起きたりしている。7月24日、世界気象機関は、世界各地で記録的な猛暑が広がっていると発表、極端な異常気象はしばらく続くと警戒をよびかけた。
異常気象の原因には、そもそも大気や海流の影響で起きる内部変動と、外部からの要因が考えられる。原因が内部変動だけなら長期的には平均化されるが、日本国内の雨量の変化をみても、世界の平均気温をみても、明らかに上昇傾向にある。外的な要因としては人間活動による温室効果ガス排出を考え合わせないと異常気象は説明がつかないと、気象学者で国立環境研究所地球環境研究センターの副センター長を務める江守正多氏は指摘する。
地球温暖化の問題は100年単位で地球全体の平均気温が何度上がるというレベルの話が多く、今ひとつピンと来なかった人も多いかもしれない。しかし、平均気温の上昇に伴って、激しい気候変動や異常気象による災害が頻発することは、以前から警告されていた。それがいよいよ現実のものとなっている可能性が高い。
もしわれわれが地球温暖化の問題に真剣に取り組まなければ、この先地球はどうなるのだろうか。環境省が発表した2100年の未来天気予報では、真夏のある一日の最高気温が東京で44度、札幌で41度と予測されている。そんなことになれば、もはや「熱中症に注意」だなどと言っている場合ではなさそうだ。
2015年に採択されたパリ協定では、2100年の世界の平均気温の上昇を2度以内に抑えることを決定したほか、努力目標として1.5度以内という数字を打ち出し、そのために、二酸化炭素の排出をゼロにすることを宣言している。
確かに野心的な目標だが、パリ協定の採択によって地球温暖化に対する世界の向き合い方が変わってきたと江守氏は語る。それまでは実現が困難と見られ、悲観的な見方が多かった「脱炭素」への動きが、パリ協定を機に世界各国で加速し始めているという。
一方、日本ではまだ「脱炭素」の動きは鈍い。他国と比べ日本では、地球温暖化対策が経済や生活にマイナスなものとして受け止められている傾向が強いため、メディアも含め地球温暖化の話題を避けようとする傾向があることは否めない。
6月に成立した気候変動適応法の意義も合わせて、地球温暖化と異常気象の関係について、気象学者の江守正多氏と社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。